名場面に名言あり。サッカー界で語り継がれる記憶に残る言葉の数々。「あの監督の、あの選手の、あの場面」をセレクトし、振り返ります。

「日本代表としての誇り、魂みたいなものは(チームのいる)向こうに置いてきた」。98年6月2日、カズ(三浦知良、当時31)がW杯フランス大会の最終メンバーから外れた。衝撃は日本にとどまらず、英紙タイムズの運動面トップ記事で扱われたほど。落選を通告されたカズは、北沢とチームを離れイタリア・ミラノへ移動。ミラノで髪を金色に染め、5日朝に成田空港に帰国し会見に臨んだ。

会見場は狭い会議室で、100人以上の報道陣が埋めつくし、部屋の温度は30度を超えていた。カズは、毅然(きぜん)とした態度で現役続行、そして代表復帰への強い意志を表した。

「プライドと誇りを持って代表でやってきた。外されたことに自分自身、絶対に納得しちゃいけない。プレーヤーである以上、何かを達成しても次にまた目標が出てくる。それは人生と同じで、やめるまでつきまとうもの。満足いくことなんてずっとないと思っている」。

「現状は見つめなきゃいけないけど、今まで持ち続けてきた信念は変えない」。

「日本代表としての誇り、魂みたいなものは(チームのいる)向こうに置いてきた。W杯? 当然見るよ」。

カズの会見は、どの報道番組でも朝から繰り返し流された。帰国からわずか6時間後には、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)の練習場の上にいた。練習着に袖を通し、何事もなかったかのようにチームの先頭を切って走っていた。練習が終わっても、黙々と腹筋を繰り返した。

それから22年。53歳になった今も、現役を続けている。所属の横浜FCは今季、J1に昇格。今も、ウオーミングアップではチームの先頭を切って走り、ストイックにトレーニングを続ける姿勢は変わらない。「サッカーがうまくなりたい」。J1の舞台で再び「キング」がピッチに立つ。