PK職人が“取り締まり”に成功した。第99回全国高校サッカー選手権は9日、埼玉スタジアムで準決勝2試合が行われた。第1試合では山梨学院が、帝京長岡(新潟)とPK戦の末に3-1で勝利。GK熊倉匠(3年)が、2度のセーブ。今大会2度目のPK戦でも、神がかった働きを見せた。2試合目は前回準優勝の青森山田が矢板中央(栃木)に5-0で勝利。決勝は11日、埼玉スタジアム(午後2時5分)で行われる。

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大好きな漫画の1つは「ONE PIECE」。海賊王を目指す主人公ルフィの仲間・魚人ジンベエのセリフが熊倉の脳裏によみがえった。

「失ったものばかり数えるな。無いものは無い!! …」。

今大会2度目のPK戦。1人目は川上。2-1の後半33分のPKはゴール左へ飛んだが、真ん中へ決められた。「また真ん中来るかと思ったけど、一瞬ゴール左を見た」。迷わず、ゴール左でブロック。「ジンベエが言っていた通り。過去を振り返るのではなく」と船出に成功した。

眼力鋭く、ボールを見つめる。視力は「たしか0・7ぐらい」。授業では眼鏡を掛けることもある。遠目だと人の顔が見えない。「PKだとちょうどいいですね(笑)」。凝視する目が圧となる。2人目はゴールはるか上。「今日は何も出来ていなくて、何とかしたかった」。4人目。今度はゴール右で防ぎ、決勝へ駒を進めた。

3歳で始めたサッカー。テニスをしていた父弘雄さんが、購入したサッカー雑誌を見たことがきっかけだった。元々はCB、FW。小学4年の時、右膝の皿が2つ以上に分かれる分裂膝蓋(しつがい)骨を負った。「『このままではサッカーが出来ない』と言われた。サッカーが出来るなら、どこでもいい」。GKの始まりだった。

接骨院の先生でもある父が授けた「GK」を背負い、ピッチで躍動する。J1東京の下部組織出身。U-18の昇格は果たせず、山梨学院を選んだ。親元を離れる際、父から「G-SHOCK」の時計を譲り受けた。「宝物です」。寮に飾り、献身的に治療してくれた父を思い返す。

PK職人であり、キャプテン。常にチームの“安全安心”を願う。体育祭、文化祭では、ゴールマウス同様に体を張った。約7000円を掛け、女性警察官のコスプレ一式を購入。コロナ禍で暗い世の中。同じGK磯部圭佑(3年)らと学校中に笑いを届けた。次なる相手は青森山田。「チャレンジャー精神で戦っていきたい」。強豪校を“取り締まり”頂のワンピースを手にする。【栗田尚樹】

◆熊倉匠(くまくら・たくみ) 2002年(平14)7月30日生まれ、埼玉出身。レジスタFC-FC東京U-15深川。好きな選手は元イタリア代表GKブッフォン。理由は「シュートストップ、リーダーシップがたけている」。身長180センチ、75キロ。血液型はO型。家族は両親、姉、妹。