記者がもし、こんな言葉を上司からかけられたら、舞い上がってしまう。

「彼は代表に選ばれてもおかしくない。クラブで優勝を勝ち取って、欧州へ行く。それくらいの実力を持っている。あとは選手次第。選手は自分がイメージしている通りにキャリアを描いていくもの。今後次第でもっと伸びる」

2日のサガン鳥栖戦。勝利したセレッソ大阪のレビークルピ監督は、試合後の記者会見で、今季初ゴールとなる決勝点を挙げたMF奥埜博亮をこう称賛した。開幕6試合連続無失点だった鳥栖から奪った値千金の1発だから、当然の言葉かもしれない。

ただ、奥埜は仙台大時代に大学選抜に入って以降は、代表とは無縁の31歳。指揮官の本音を読み解くと、“ほめて伸ばす”ことを意識しての発言だと思った。

しかし、この68歳のブラジル人監督をよく知る関係者は、首を横に振った。

「もちろん、ブラジルでも社交辞令やお世辞はある。でもレビーさんは、仕事上はお世辞なんて、絶対に言わない人。本心から、奥埜は代表に行ける、欧州に行けると思える存在なのでしょう」

レビークルピ監督は一時はブラジル代表監督候補にもなり、約35年間でのべ32クラブで指揮を執った。本場ブラジルを中心に勝つか、負けるかの究極の勝負をしてきた世界的名将。2試合負けただけで解任、という経験もある。

今オフに8年ぶりのC大阪復帰が決まった際も、前任のロティーナ監督(スペイン)が5位、4位と好成績を収めていただけに、なぜいまさら、レビークルピなの? と批判がクラブに届いた。香川真司や南野拓実を欧州へ送り出した人物だが“過去の人”という空気があった。

「レビーさんは、前任者と比べられようが、何とも思っていません。若い頃なら分からないが、過去2000試合以上も指揮を執ってきた人が、世論に影響されたり、ましてや、嫉妬やライバル心を抱くはずがありません」

これも前述の関係者の証言だ。

奥埜はベガルタ仙台、V・ファーレン長崎などを経て19年にC大阪入り。ボランチ、攻撃的MF、FWと万能型選手で、昨年までは主にFWで、2年連続7得点を記録してきた。もちろんC大阪不動のレギュラーなのだが、この日の指揮官のコメントを聞いて、気分が悪いはずがない。

しかも本気で代表推し、欧州移籍推しをしてくれたのだ。奥埜は監督のコメントを伝聞で知り、会見でこう話した。

「原川、坂元選手が(3月下旬に)日本代表に入ったのはいい刺激になった。サッカー選手をやっている以上(監督が言うようなところを)目指してやっていきたい」

レビークルピ監督が放った言葉は、本人の意図に関係なく、奥埜にとっては魔法の言葉になったに違いない。C大阪はこの夜、暫定3位に浮上。悲願のJ1優勝へ、奥埜を、そしてチームを本気にさせる試合になったのかもしれない。【横田和幸】