川崎FのU-24日本代表MF三笘薫(23)が、今季も得意のドリブルで際だつプレーを見せている。爆発的なスピードがあるわけでも、派手なテクニックがあるわけでもない。いい意味で「ヌルヌル」と表される三笘のドリブルは、何がすごいのか? 3月3日のC大阪戦で見せた今季初ゴールの場面を取り上げ、同じドリブルを武器に浦和などで活躍した元日本代表FW永井雄一郎(42)が解説する。【取材・構成=杉山理紗】

■スムーズで速い仕掛け

三笘選手のドリブルの特徴の1つが、ボールの置き所です。自分の真下、右足のインステップにボールを置いて、細かくタッチしながら運んでいます。ドリブル時にボールをさらすシーンがほとんどないですよね。ボールを運んでいるというより、走りにボールがくっついているタイプ。だから急に角度を変えることもできます。「よーいドン」で走ったとき、永井謙佑選手(東京)や伊東純也選手(ベルギー1部ゲンク)のようなスピードがあるわけではありません。それでもDFを置き去りにできるのは、ボールの置き所がいいからだと思います。

右足でボールを運ぶので、定位置の左サイドで仕掛ける時は、インサイドにボールを置いていることになります。左足を1歩出して仕掛けた時、DFが縦のコースを切ろうとすると、カットイン(中央へ切れ込むプレー)のコースが自然に生まれます。逆にDFが内側のコースを切ったままであれば、右足で引っかけて、左足をもう1歩持っていくことで、DFを置き去りにできます。カットインして内側に行くのか、縦に行くのか。自分のアクションに対して守備がどう動くかによって、コースを決めている印象です。

ドリブラーには「足元で止めてからドリブルを開始する」という選手が多いですが、三笘選手はファーストタッチのトラップがドリブルの開始になっており、入りが速いです。またフェイントを入れないのも特徴です。フェイントをするとスピードが落ちて、1人DFをかわしても他のDFがカバーに来ることが多いですが、三笘選手は1人はがした後、カバーが来る前にスペースに逃げます。そのため、スムーズで速い仕掛けができています。

ドリブル時の姿勢もいいので、相手の重心が自然と視界に入っているんだと思います。ボールばかり見ていると頭は下がりますが、常に足元に置いているので、見なくてもタッチできる。アシストが多いのも、顔が上がっていて先のことが見えているからでしょう。

■中に潜り込むエラシコ

C大阪戦(等々力、三笘の決勝点で3-2勝利)のゴール場面は「驚愕(きょうがく)エラシコ」として、Jリーグ公式YouTubeでも取り上げられています。

右足でのエラシコは通常「右にカットインすると見せかけて、DFが付いてきたら縦に行く」パターンが多いです。三笘選手の場合は、「左足で縦に行くと見せかけて、DFが付いてきたので右にカットイン」をしています。単純にカットインするだけでもDFを抜けますが、エラシコをすることで、DFの背後に入り込んでいます。

ここでシュートを打つと“普通”のプレーですが、三笘選手はゴールへ向かうドリブルに切り替えています。先のイメージを持った状態でカットインしたのでしょう。もう1つ深いところに進入する絵が描けており、中に潜り込むためのエラシコだったのです。

元ブラジル代表FWロナウジーニョは「カットインと見せかけて縦に行く」ためにエラシコをします。三笘選手のような「縦に行くと見せかけてカットインして、DFの裏に入り込む」ためのエラシコは、すごいの一言です!!

◆エラシコ アウトサイドでボールを外側に押し出して、すぐに同じ足のインサイドで内側に切り返す、ドリブルの一種。DFをかわすために用いられる。

◆永井雄一郎 (ながい・ゆういちろう)1979年(昭54)2月14日、東京都生まれ。三菱養和SCから97年に浦和入り。98年にカールスルーエ(ドイツ2部)に期限付き移籍、99年ワールドユースで準優勝。00年浦和に復帰し、07年アジアチャンピオンズリーグ優勝と大会MVP。清水、横浜FC、群馬などでもプレー。03年に日本代表でコンフェデ杯フランス大会に出場した。現在は神奈川県2部はやぶさイレブンに所属。