<J1:川崎F3-1大宮>◇第6節◇18日◇等々力

 大歓声に揺れる等々力が、懐かしかった。値千金の決勝アシストを決めた後、川崎FのDF井川祐輔(26)は何度もスタンドを見回した。「素直にうれしい。等々力は久々だから」。後半31分にMF横山と交代し、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)天津戦以来、1カ月ぶりにホームのピッチに立った。すると同42分、思い切ったオーバーラップから右クロスを放り込み、MF谷口の決勝ヘッドをおぜん立てした。丸刈りに変わった頭の右側には、大きなバツのような印が、さんぜんと輝いていた。

 昨年日本代表に招集された男が、がけっぷちに立たされていた。今季は選手会長を任されながら、1-2で敗れた神戸戦後に定位置を失った。リーグ戦は前節清水戦まで3戦連続ベンチ。練習中も笑顔を絶やさない、チームの盛り上げ役の姿は変わらなかったが、内心では葛藤(かっとう)もあった。自身のブログで故相田みつをさんの詩を取り上げ「目標に向かって頑張る」と決意表明し、自らを鼓舞したりもした。

 17日の練習後、頭を丸刈りにして、右側頭部にバツ印に見えるそり込みを入れた。「フロンターレではやるで」とおどけてみせたが、真意を聞かれると「悔しさを含め、いろいろな思いを形にしたかった」とつぶやいた。この日も残り1つの交代枠に、最初に呼ばれたのはMF田坂だったが、横山が足がつったことで急きょお呼びがかかった。チームカラーがオレンジの大宮を2年8カ月ぶりに撃破し、「オレンジののろい」からチームを解き放った。「もう出番はないと思った。記者の人に囲まれるの、久しぶりだね」。笑顔は最高に輝いていた。【村上幸将】