<J2:札幌3-1横浜FC>◇第50節◇29日◇札幌ド

 今季限りで引退表明しているコンサドーレ札幌のDF曽田雄志(31)が、涙の“サヨナラゴール”を決めた。横浜FC戦の後半42分から、リーグ戦では08年4月5日東京戦以来603日ぶりに出場。ロスタイムで自ら得たPKを、やり直しの末に決めるドラマチックな花道を自ら演出した。07年7月21日東京V戦以来862日ぶりの得点は自身初のPK弾だった。

 曽田が人生最高の7分間を満喫した。後半42分、キリノに代わりFWとして途中出場すると2万1463人の大観衆から地鳴りのような歓声が起こった。「出られても数分。そこにどれだけ自分のサッカー人生を出し切れるかを考えていた」。GK高原からキャプテンマークを渡されピッチに立つと、背番号4の周りで思わぬドラマが次々と飛び出した。

 ロスタイム1分に砂川からのスルーパスを受けペナルティーエリアに侵入すると、DF早川ともつれあうように倒れPKを獲得。「故意に倒れてはいないけどシミュレーションかと思った。あの瞬間もう泣きそうだった」。横浜FC選手が審判に猛抗議を繰り返す中、曽田の涙腺は洪水寸前だった。

 奇跡は1度では終わらない。チームメートからPKキッカーとして推されると、曽田の引退を知っていた横浜FCのFW三浦知と元日本代表のMF三浦淳の2人から「ちゃんと決めろよ」と温かい“エール”。「ありがたかったけど逆に怖くなった」という緊張のプロ初PKはゴール左に蹴るも…。少し地面をこするような不本意なシュートでGK大久保にあっさり止められた。

 ファンのため息と同時に、主審の笛が鳴る。GKの動きだしが早かったということでやり直し。「やっぱり怖かった」。ガチガチの再挑戦の右足シュートだったが、何とかゴール左隅に転がり込み自身節目のプロ20点目となった。

 試合後、スタンドに深々と2回おじぎをするとこらえていた涙が一気にこぼれ落ちた。「こんな終わり方は想定していなかった。幸せ」。この日は長男・青(せい)君の5歳の誕生日だった。ボロボロの体でたたき込んだ息子への劇的なプレゼント弾。すてきなパパぶりも発揮して、9季戦った愛着ある札幌ドームに別れを告げた。

 曽田の愛車のダッシュボードにはスーパーマンのフィギュアが飾ってある。1年半ひたむきにリハビリを続けてきた背番号4の「クラーク・ケント」。7分間だけ見せたスーパーマン曽田「勇姿」が、札幌史上最高の引退試合を演出した。【永野高輔】