<天皇杯:G大阪4-1名古屋>◇決勝◇1日◇国立

 G大阪が日本代表MF遠藤保仁(29)の神懸かり的な活躍で、頂点に立った。元日、名古屋との天皇杯決勝で後半32分、絶妙の個人技で2人を抜き去り決勝弾を決めるなど、2ゴール1アシストと全得点に絡んだ。G大阪は4-1で快勝し、Jリーグ発足後では05、06年度の浦和以来2クラブ目の天皇杯連覇を達成。2010年W杯イヤーは「岡田ジャパンの心臓」の鼓動で、幕を開けた。

 真っ青な正月の空に向かって、遠藤が心で叫んだ。「ママ、見てくれましたか!」-。左腕の喪章を外してキスをした。右手人さし指で天を指した。ポーカーフェースで知られる男が、感極まった。後半32分、連覇を手繰り寄せた決勝ゴール。右サイドで二川からボールを受け、DF2人を抜き去り、ゴール前中央へ。日本代表GK楢崎が守るゴール右隅へ、利き足ではない左足で決めた。

 超絶の個人技には「大阪の母」の後押しがあった。親会社パナソニックの松下正幸副会長の妻昌子さん(享年56)が12月22日にがん性腹膜炎で他界した。前身の松下電器サッカー部時代から、世話になった。何度も食事をごちそうになった。08年夏にウイルス感染症で入院した時は、千羽鶴を折ってくれた。クリスマスイブの告別式では、闘病ですっかり軽くなった体が眠る棺を担いで、泣いた。

 遠藤

 選手には(闘病生活を)隠していたので、突然のことで驚きました。「今度、家族で一緒にご飯に行こう」と約束していたんですけど…。葬式ではバン(播戸)たちと6人で棺をかついで…。すごいお世話になった人なので。ママのためにも優勝したかった。

 神がかっていた。先制弾の起点になり、後半41分には速攻から二川とのコンビで3点目をアシスト。同ロスタイムには自ら4点目。全4点に絡んだ。試合後に「トラップから先のプレーが(すべて)イメージできていた」と漏らし、仲間をあきれさせた。

 超人的な感性は昔からだ。小学生のころ、足が速いわけでもないのに、50メートル走はいつもトップだった。友だちはゴールを見てスタート位置に付く。ところが、遠藤は真横を見る。「スタートのピストルを撃つ先生の人さし指を見てました。指が動いた瞬間にスタートを切る。本当はズルなんですよ」。当時から人と違う視点で次の動作を待ち、人より先に動く術を身に付けていた。

 遠藤

 今も、攻撃の時の最初の3歩は意識しています。場数は踏んでいますから(笑い)。今年はW杯もある。そこでいい結果を出すのは当たり前なんで。

 W杯イヤーの初日。「岡田ジャパンの心臓」が最高の「1歩」を踏み出した。【益子浩一】