<日本代表2-1J選抜>◇29日◇大阪・長居

 祈りのカズダンスが、被災地へエールを届けた。Jリーグ選抜の横浜FCのFWカズ(三浦知良=44)が、途中出場した後半37分に右足で得点。そのまま代名詞のカズダンスのステップを踏んだ。一瞬でも苦しさを忘れ、サッカーに没頭してもらいたい、その思いを込めたゴールと、ダンスだった。試合は日本代表に敗れたが、日本サッカー界の“キング”が、これ以上ない可能性という希望を、日本中に披露した。

 踊った、そして祈った。カズ、日本サッカー界のキングが「復興へのカズダンス」を被災地へ送った。1人だけの思いではない、全世界のサッカーに関わる人の思いを、喪章をつけて初めて踊るダンスに込めた。

 カズ

 暗くなってはいけないと思った。本当にみんなの気持ちが1つになったゴール。東北の皆さんに届くことを祈っている。きっと届いたと思います!

 後半37分、闘莉王の競ったこぼれ球に抜け出す。DF森脇を振り切り、GK東口より一瞬早く右足を合わせた。ゴールマウスにボールが吸い込まれるより早く、一目散にゴール裏へかけだした。そして、踊った。「1つのゴールで見ている人やスタジアムにいる人が幸せになるし、明るくなる。ゴールというのは、そんな力を持っている」。その通り。スタジアム、いや日本中が明るくなった。

 後半17分に交代出場。「カズ、カズ、カズ、カズゴール、カズゴール、カズゴォオル!」「三浦カズ、オレ!」。両ゴール裏だけでなく、スタジアム全体が名前を呼び続けていた。

 誰もが思った「持ってる」。だが、カズはその言葉を嫌がる。昨年8月の岡山戦でシーズン初ゴールを決めた。後半44分から出場し、ロスタイムに相手のバックパスが自分の前に転がった。フリーで右足で流し込んだが、「持ってる、っていうのは違う。あのシュートも簡単じゃない。確かにチャンスは来たけど、それを生かせるかどうかは日々の努力。その一瞬に、どれだけ集中し、どれだけ普段の力が出せるかなんです」と強調した。積み重ねてきた努力があるからこそ、強い信念を持ってシュートが打てる。復興を目指す被災地を、どれだけ勇気づけたか想像に難くない。

 27日、静岡から大阪への移動中、立ち寄った場所がある。神戸。95年の阪神・淡路大震災から復興した町。カズも01年から5年間、ヴィッセル神戸でプレーした町。よみがえった町に、東北の未来像を重ねた。

 この1試合は終わりではなく、始まりだ。「みんながついている。日本全体、世界全体、全員で危機を乗り越えましょう」。試合後に呼び掛けた。95年の阪神・淡路大震災、04年の新潟中越地震でも、その後の慈善試合に参加した。

 「これからもメッセージを送り続けないと。仙台でやりたい」。今度は被災地での慈善試合開催を目指していく。踊るのは1度だけでは終わらない。自分ができること、サッカー界ができることを求めて、何度でも。【阿部健吾】