<皇后杯:INAC神戸1-0千葉>◇決勝◇24日◇NACK

 INAC神戸のMF澤穂希(34)が皇后杯初代女王に輝き、激闘の1年を締めくくった。0-0の後半ラストプレーのCKで、決勝ゴールの起点になり千葉を下した。FIFA(国際サッカー連盟)年間女子最優秀賞受賞、ロンドン五輪銀メダル、リーグ戦無敗連覇に続き、全日本女子サッカー選手権大会(皇后杯)3連覇を成し遂げた。試合ずくめの1年を終えた澤は「まずは休みたい」と即答。そして、今後の代表活動について、現在の心境を包み隠さずに明かした。

 苦しんだ末の皇后杯は、澤へのクリスマスプレゼントになった。INAC神戸らしいパスサッカーが不発のまま、0-0の後半終了間際。澤のひと言が合図になった。「明日菜、最後のワンチャンス。ここで決めるよ」。澤がCKにファーサイドで反応し、右足で折り返す。FW高瀬のシュートはDFに当たるが、そのこぼれ球をDF田中明が右足で押し込んだ。

 澤

 絶対決めれる。チャンスだと思った。ああいう直感が出たということは、もうちょっとやれるってことかな。でも、まずはとにかく休みたい。足だけじゃなくて、全身が張っています。

 準々決勝AS狭山戦は休養のため欠場。体調と相談しながら、目標だった皇后杯を手にした。「3連覇という目標は達成できた。これで気持ちよく年末年始を過ごせます」。ようやくここまでたどり着いた。道のりは坂道だらけ、重圧は常に増し続け、強いはずの澤の心ですら、大きく振れ続けた。

 五輪を集大成と公言してきた。今年限りで代表を引退する-。そういう空気を漂わせて五輪を戦った。銀メダルを土産に帰国すると、なでしこジャパンとしての澤の去就に注目が集まった。帰国直後、代表活動の継続を明言、11月の国際女子クラブ選手権や皇后杯のプレーで、騒がしかった代表引退問題に答えを出した。

 澤

 ロンドンにかける思いは強かったし、次のことはまったく考えられていなかった。自分の気持ち的にも(代表としての活動はロンドンで)最後になるんじゃないかなって思った。W杯まで3年。五輪まで4年。体力も気持ちも相当使うのは分かっているから、確かにロンドン五輪の時点では自信がなかった。

 サッカーの楽しさをあらためて感じた五輪だった。結果も出し、自信も取り戻した。だが今は、次の目標を定めきれていない。休息と考える時間を体と心が一番求めている。

 澤

 来年の自分がどこでやっているのかもまだ決めてないくらいだから、悩むよね。1年1年が勝負。若い時だったら、先をみて、となるけど。自分の中でどうしたいのかも見えて来ない。

 一方で、女子サッカー、なでしこジャパンを盛り上げたい気持ちは強まる。敵味方関係なく、良いプレーをした若手には積極的に言葉をかける。準決勝浦和戦後にはアジア最優秀ユース選手に選出された浦和MF柴田をほめた。

 澤

 若手が底上げされれば、日本全体のレベルもあがる。それが女子サッカーの発展にもつながる。皇后杯も初めて単独になった。たくさんの人が応援に駆けつけてくれたことは、本当にうれしい。

 皇后杯としての初女王は個人的にも絶対欲しいタイトルだった。星川監督の退任が決定し、日テレ時代からともに戦ってきたFW大野、DF近賀は海外移籍も視野に入れており、このメンバーでの戦いは最後になる可能性もある。

 澤

 今年1年の締めくくりとしては最高の結果。うれしい。でも(途中交代した)大野や近賀と最後一緒のピッチに立てなかったのは残念。

 INAC神戸との契約延長もまだ決断していない。15年W杯カナダ大会、16年リオ五輪がなでしこジャパンの大きな目標だが、澤のハートはまだ燃えて来ない。

 澤

 自分の気持ちがその方(W杯、五輪)に向ければ、頑張ろうと思う。来年は、また普通にピッチに立っていく。そこで気持ちががっつり騒ぐっていう時が来るかもしれない。その時は先の目標も立ててみようって思う。だから今は、1個1個、1つ1つの大会にこだわりたい。

 なでしこジャパンは2月の合宿で再スタートする。澤の代表魂は、ひとまずロンドン五輪を終えて小康状態に入った。再びハートに火がつくかどうかは澤本人にも分からない。いつか燃え盛るであろうその時のために、今はエネルギーをため、休息を最優先させる。【鎌田直秀】<MF澤の今年1年>・1月

 FIFA年間女子最優秀賞受賞。・2月

 スペイン遠征で右ふくらはぎ肉離れ。なでしこ合同和歌山合宿辞退。・3月

 アルガルベ杯で良性発作性頭位めまい症発症。・4月

 なでしこリーグ福岡AN戦で試合復帰。・6月

 スウェーデン遠征でなでしこ復帰。・8月

 ロンドン五輪銀メダル獲得。・10月

 岡山湯郷戦でなでしこリーグ連覇達成。・11月

 国際クラブ選手権決勝でリヨンに敗れ準優勝。・12月

 皇后杯決勝で千葉を破り3連覇達成。