日本サッカー協会の田中道博専務理事(55)が、日本体育協会(日体協)元女性職員に対してセクハラと疑われる行為をしたとする内部文書の存在が3日、明らかになった。日体協が11年2月から8月までの約半年間、元女性職員、同僚、上司などから聞き取り調査を行っていた。日体協は「田中道博理事の迷惑行動について」とする内部文書を作成し、日本サッカー協会もセクハラ疑惑を把握しながら厳重注意処分で済ませてきた。両協会のコンプライアンス意識の希薄さとも思われる側面が浮き彫りになった。

 内部文書には、日付とともに田中専務理事がテーブルの下で手を握る、一方的に会食に誘うなどの具体的なやり方が記されていた。

 また、そうした同専務理事の行為に、元女性職員が精神的に追い詰められていたとうかがえる記述もあった。行為に対し「役員なのでこの場だけ」と我慢する様子など、心理的な描写も詳しく記録されていた。結局、元女性職員は契約満了で日体協を離れている。

 一方、内部告発により調査を開始した日体協は事実を確認。日本サッカー協会が同専務理事を理事として日体協に推薦していたことから、同専務理事の迷惑行動の内容を日本サッカー協会に伝えた。協会も同専務理事から事情を聴き、口頭による厳重注意とした。

 セクハラ疑惑が明らかになった6月6日は、日本サッカー協会の理事会が行われ、同専務理事は自身の疑惑に「客観的に伝えた方がいいので会見には出席しません」とし、記者会見では議事進行を務めたが、質疑応答を受ける前に、途中で会見を退席していた。

 代わりに答えた田嶋幸三副会長は、元女性職員から協会幹部が直接話を聴いた上で、セクハラの認識がないという発言を根拠に、疑惑を一部認めつつも、セクハラ自体は否定していた。

 疑惑発覚から約4カ月。その間、関係者によると、日本サッカー協会の部長会で福井一也事務局長は「セクハラの事実はないから、今後みんな口に出すな。部員にも伝えるように」とかん口令とも思われる指示を出し、騒動の収束を図った。協会トップの大仁邦弥会長も1日、「なかったということですから。あの時(6月)すべてそう説明しています」と、セクハラの存在をあらためて否定した。

 田中氏は現在、体調不良を理由に8月末から1カ月以上も長期休養中。9月30日に日本サッカー協会に辞意を伝えている。大仁会長は慰留したが、このまま辞任する可能性がある。

 セクハラ認定には、当事者の証言が必須で、元女性職員、田中専務理事双方が否定している。今回の内部文書には、生々しい同専務理事の行為と、それに苦しむ元女性職員の心理面まで詳しく書かれている。こうしたやりとりがあったことを日本サッカー協会、日体協は把握していたことが、内部文書の存在によって明らかになった。また、疑惑発覚後も公表せず、そのまま隠蔽(いんぺい)しようとした疑いも生じてきた。

 公益財団法人の日本サッカー協会は、社会に大きな影響力を持つ。日本代表や、Jリーグを統括し、サッカー少年少女を育成する役割を担う。社会規範の順守が求められる。

 同じ公益財団法人の全柔連が暴力問題、パワハラ指導などで社会的に厳しい制裁を受けた。今回、当事者のセクハラ否定を根拠に、元女性職員が精神的、肉体的苦痛を与えられていたことを知りながら、同専務理事を厳重注意にとどめていた点で、日本サッカー協会、日体協の管理能力、法令順守の意識が疑問視されても不思議ではない。両協会の社会的責任は極めて重い。

 ◆内部文書

 日体協が元女性職員から聴取したもの。「田中道博理事の迷惑行動について」と題された文書はA4サイズで3枚。冒頭は11年2月17日の懇親会のセクハラを思わせる行為が克明に書かれている。その後は8月9日まで、約半年の間、田中氏の数回の誘い出し、パワハラを疑わせる行為などがつづられている。