名古屋は20日、西野朗新監督(58)と名古屋市内で契約を結び、就任会見を行った。契約年数は2年で年俸は推定8000万円。6年間続いたストイコビッチ体制をJ1最多244勝の名将が引き継ぐ。クラブの経営状態もあり、現状で大型補強の見込みはない。圧倒的な手腕を見込まれた新監督は1個約80円のマグネットを選手に見立てて戦略を練り、適材適所のやりくりでチーム再建にあたる。

 就任した名将に用意されたのは、年俸1億円超の大物新戦力ではない。1個約80円のマグネットだった。これを駆使して名古屋を立て直す。大嫌いなネクタイを締めての就任会見。西野新監督は、100人超の報道陣の前で2季ぶりとなる現場復帰への熱い思いを口にした。「この1年、ひたすら復帰したいと思っていた。神戸を退任してから、あそこに行きたい、やりたいと思っていた」。名古屋での指揮を熱望していたことを明かした。

 ただ、新天地はバラ色ではない。導入されたクラブライセンス制度のもと、赤字続きで、かつての潤沢な補強費はない。今オフも増川、田中隼、阿部のレギュラーDF3人との契約を更新しなかった。戦力ダウンは明らか。現状で新人以外に目立った補強もない。若手の登用とやりくりで今季11位に沈んだチームの立て直しが求められる。

 そのための切り札が小さな赤いマグネットだ。戦術ボード上で選手に見立ててシステムから動き、組み合わせまで、知恵を絞ってイメージを膨らませる。新監督の好みに合わせた直径15ミリ、丸いものを計30個、しめて約2400円ナリ-。用意されたこれが、最初の“補強”となる。

 若手を登用し適正ポジションを見直しチームをよみがえらせる。それでも「間違いなくJリーグのトップグループに入れるチーム作りを」と言った。難しいミッションも「新人の監督ではないので」と圧倒的な経験でこなす。スタイルはこれまでと同じ。「守備的ではなく攻撃的」。ひな壇を降りると即座にネクタイを外しいつもの開襟、独特のダンディーな西野スタイルとなった。名将が戦いの場に戻ってきた。【八反誠】

 ◆西野朗(にしの・あきら)1955年(昭30)4月7日、埼玉県浦和(現さいたま)市生まれ。浦和西-早大から日立に入り日本代表でも活躍。90年に現役引退し指導者に。96年アトランタ五輪では日本代表を率いブラジルを下す「マイアミの奇跡」を起こす。その後は柏、G大阪、神戸の監督を歴任し、G大阪でリーグ、ナビスコ杯、天皇杯、ACLなど数々のタイトルを獲得した。J1通算244勝は最多。