悪名高きミルウォール(今季イングランド3部、来季2部昇格)のサポーターが、ロンドン中心部で起きたテロの最中に、多くの人々の命を救っていた。英サン紙(電子版)が報じた。

 3日に起きたテロでは、犯人たちはまず車を暴走させ、ロンドン橋の歩道に突っ込んだ。さらにナイフを振り回し、食品市場バラマーケットを襲った。

 ミルウォール・サポーターのロイ・ラーナーさん(47)が友人たちとお酒を楽しんでいたパブにも、刃渡り30センチのナイフを持った実行犯の男3人が「イスラム、イスラム」「これはアラーのためだ」などと叫びながら入ってきた。

 ラーナーさんはたった1人で、しかも素手で応戦。体中を切りつけられながらも、他の客やスタッフが逃げる時間を稼いだ。

 首の後ろを深く切られながらも一命を取り留めたラーナーさんは病院のベッドでサン紙のインタビューに答えた。


 ラーナーさん 犯人たちが入ってきた時、オレは近寄っていって、アホみたいに叫んでた。『クソ野郎。オレがミルウォールだ!』ってね。そしたらヤツらが襲ってきた。でも犯人の正面に立って応戦した。素手でね。あいつらを止めようとしたんだ。そうすれば他の客たちが裏から逃げられるから。まあ1対3だったから、こんなに切られちまったけどな。8カ所はやられたよ。頭、胸、両手。襲われた時の最悪の対応だっただろう。でも致命傷にならなかったから、今こうして生きてる。


 ラーナーさんは、犯人たちが他の店舗を襲撃しようと出ていった時にも、果敢に追いかけていったという。その後、3人は警官によって射殺された。

 ミルウォールのサポーターはその凶暴さで有名。スタジアムで幾度となく暴動を起こし「No one likes us, we don’t care(だれもオレたちのことなんか好きじゃないが、オレたちは気にしない)」というチャントすらあるほどだ。

 しかしラーナーさんの行動で、多少は見方が変わるかもしれない。ネットでは「ラーナーさんにジョージ・クロス(人命救助等における極めて勇敢な行為に対して与えられるイギリスの勲章)を」という嘆願ページも作られた。

 入院中のラーナーさんに、友人たちから陸上競技の雑誌が差し入れられたという。表紙には「LEARN TO RUN(走り方を学ぶ)」の文字が。これは「逃げ方を学ぶ」とも読み取れる。やんちゃな友人たちからの、ウイットに富んだプレゼントだった。

 【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)