先週1週間の欧州サッカー界は「欧州スーパーリーグ(ESL)」の話題で持ちきりだった。

▽イングランド6クラブ(リバプール、マンチェスターU、マンチェスターC、チェルシー、アーセナル、トットナム)▽スペイン3クラブ(Rマドリード、Aマドリード、バルセロナ)▽イタリア3クラブ(ユベントス、ACミラン、インテル・ミラノ)の計12クラブが、現行の欧州チャンピオンズリーグ(CL)に取って代わる大会として新リーグESLの立ち上げを発表したのだ。

これは過密日程や収益分配の面で不満を持っていた12クラブから、欧州サッカー連盟(UEFA)への宣戦布告。ESL初代会長に就任したRマドリードのペレス会長はESLの対戦カードの豪華さや、収益確保の安定性をアピールし、“サッカー離れ”が顕著だという若者からの支持も回復できると豪語した。

ただESLの仕組みを見れば、サポーターたちには受け入れられないだろうことは容易に推測できた。(1)全20チーム中、前出12クラブを含む15チームがオリジナルメンバーとして昇降格なく毎年リーグ戦を戦う不公平さ(2)毎年残り5チームを入れ替えたとしても、欧州CL出場権を得るために戦うという、これまでの各国リーグの存在意義が失われる(3)トットナムやアーセナルなど、現在自国リーグでも結果を残していないクラブを“スーパー”と呼べるのか(4)「クラシコ(Rマドリード-バルセロナ)」などの豪華カードが頻発することで、相対的にそのカードの価値が低下する(5)豪華カードが多数ある半面、サッカーの醍醐味(だいごみ)である「ジャイアント・キリング」がなくなる等、問題点はいくらでも列挙できる。

リバプール、マンチェスターU、アーセナル、ACミランを米国人が運営しており、ほぼ決まったメンバーで、ショーアップされたリーグ戦を戦うESLは完全に米国式。米国人オーナーたちの思惑を嗅ぎ取ったことも、伝統を重んじる欧州のファンの反発を招いた。結局、当該クラブの選手や監督からも支持を得られず、サポーターたちにはそっぽを向かれ、ESLはわずか数日で頓挫した。

Rマドリードのペレス会長はリーグ新設の理由の1つとして、コロナ禍での減収を補うためだと説明した。ただコロナ禍での減収は試合が開催できないことや無観客での開催による減収。「新リーグを創設する」という方法は直接の解決法ではなく、逆にビッグクラブがサッカー界の収益を独り占めしようとしているイメージを拡大してしまった。

まず改善すべきなのは、選手や代理人に支払われる法外な年俸、手数料や、天文学的に高騰した移籍金だろう。メッシやロナウド、ネイマールであっても、いくら何でも払いすぎだ。クラブは自らの首を絞めている。現在もクラブの赤字経営を許さないファイナンシャル・フェアプレーというルールはあるが、もっと厳格な規制があっていい。選手の総年俸に制限をかけるサラリーキャップは米国の多くのスポーツで導入されており、この分野では米国から学べることも多いだろう。

下部リーグのクラブでも昇格を繰り返し、最後はトップリーグで優勝できる可能性がある。それをサポーターが一丸となって後押しする。それが欧州サッカーのロマンだと思う。今回、結果的にそのロマンが守られ、心からうれしく思う。【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)