コロナ禍でなにかとストレスがたまる生活の中、久しぶりにほんわかした気持ちになった。

“世界最古のサッカー大会”FA杯の決勝が15日、ロンドンのウェンブリー・スタジアムに2万人のファンを集めて行われた。レスターがベルギー代表MFティーレマンスの豪快な決勝ミドルシュートで、1-0でチェルシーに完封勝ち。52年ぶり5度目となる決勝戦でようやく初優勝を果たした。

試合後、キャプテンのGKシュマイケルに肩を抱かれながら、1人の小柄な男性がピッチに降りてきた。男性はレスターの選手1人1人と抱き合い、ロジャーズ監督とも抱擁し、選手たちから優勝カップを手渡されると、少々照れながらも、うれしそうな表情でカップを高々と掲げた。

男性はレスターのオーナーであるタイ人実業家のアイヤワット・スリバダナプラバ氏(35)。近年ではめずらしいくらい、選手たちから親しみをもたれているオーナーの1人だ。

レスターは15-16年シーズンにFW岡崎慎司らを擁してプレミアリーグを制した。開幕前に英老舗ブックメーカー「ウィリアム・ヒル」がつけた優勝オッズは5001倍。これは“ほぼ不可能”を意味する数字で、プレミア制覇はまさにミラクルだった。当時のオーナーがアイヤワット氏の父親ビチャイ・スリバダナプラバ氏で、ビチャイ氏も「お金は出すが、口は出さない」というオーナーのかがみのような人物。岡崎ら選手たちからも「ボス」と呼ばれて愛されていた。

しかし18年に悲劇が訪れる。本拠地キングパワー・スタジアムからビチャイ氏を乗せて飛び立ったヘリコプターが、離陸直後に墜落。ビチャイ氏は帰らぬ人となった。今回のFA杯優勝は、ビチャイ氏のもとで勝ち取ったプレミアリーグ制覇以来となるレスターのタイトル。父の死去とともにオーナー職を受け継いだアイヤワット氏は、優勝が決まった直後、感極まって涙を流した。

決勝ゴールのティーレマンスも試合後「なんて瞬間なんだろう。FA杯の決勝でゴールすることができて、本当にうれしい。これより良いゴールなんて思い付かないよ。スタンドのオーナー、そして彼のお父さんも誇りに思ってくれるはずだ」とアイヤワット氏と天国のビチャイ氏を思いやる言葉を口にした。同MFは19年からレスターでプレーしており、直接ビチャイ氏と交流があったわけではないが「この優勝はビチャイ氏の遺産となって語り継がれると思う」とも話した。

最近では欧州スーパーリーグ構想に参加したビッグクラブのオーナーたちが「クラブ愛のない銭ゲバ」として、サポーターから大バッシングにあっている。レスターのオーナー親子は、純粋にクラブの勝敗に一喜一憂し、選手たちとうれしさ、悔しさを共有してきた。英メディアも「レスターの姿こそ、古き良きフットボールのあり方だ」とたたえていた。【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)