20日に米カリフォルニア州カーソンで行われた女子サッカー・シービリーブス杯の米国(FIFAランク1位)-ニュージーランド(同22位)戦で気の毒すぎる出来事が起きた。

前半5分、6分、36分と米国が得点。前半だけで3-0とリードした。これがすべてニュージーランドDFメイケイラ・ムーア(25=リバプール)のオウンゴールだったのだ。

ムーアは前半5分に相手左クロスをクリアしようと右足を伸ばしたが、ボールは無情にも自軍ゴールへ吸い込まれた。1分後にも相手が右サイド後方から放り込んだボールをヘディングしてオウンゴール。前半36分には相手の速い右クロスに左足を出したが、ボールはゴールへ向かって跳ね返ってしまった。

ムーアはがっくりとうなだれ、プレー続行が不可能なほどだったため、ニュージーランドのクリムコバ監督が前半40分に交代を命じた。結局、ニュージーランドは0-5で完敗。この試合はムーアにとって記念すべき代表50試合目だったが、忘れてしまいたい悪夢の一戦となってしまった。

とはいえ、敗因をムーアだけに背負わせるべきではない。そもそもオウンゴールの3点は、いずれも味方が米国の速い攻撃にまったくついていけず、いとも簡単にクロスを上げさせたことから起きたものだ。

またオウンゴールの1点目は手足の長いムーアが懸命に足を伸ばしたからこそ起こったもので、あの場面でボールに触れることすらできないDFはたくさんいるだろう。2点目は、目の前の相手選手とボールがかぶってしまい、うまくヘディングできなかった不運なものだった。

ネット上ではこの試合を面白おかしく報じる記事も多く、SNSには「スパイクを脱ぐ時だ。こんなパフォーマンスは見たことがない」「この1試合だけで引退を考えてもいい」のようなひどい書き込みもされている。

だがクリムコバ監督は「どんな選手にだって良いプレーができる日もあれば、そうでない日もある。我々は彼女がどれほど素晴らしい選手か分かっている。できる限りサポートしたいし、彼女には我々がついている」と、東京五輪にも出場した守備の要を擁護した。

クリムコバ監督が言うように、誰にでもうまくいかないことはある。13年1月12日のプレミアリーグ・ストーク-チェルシー戦で、ストークのアイルランド代表FWジョナサン・ウォルターズは2度オウンゴールを犯し、さらにPKを失敗するという最悪の1日を過ごした。それでもウォルターズは17年までストークでプレーし、同クラブで226試合で43ゴールをマーク。18年までプレーした代表でも54試合で14点を挙げた。

ムーアが所属するリバプールのサポーターが試合前後に歌うのが「You'll Never Walk Alone(人生ひとりではない)」。すでに多くのファンが「顔を上げて」「誰にでもミスはある」「元気出して」などと声を上げてムーアを励ましている。同DFには何事もなかったかのように胸を張ってピッチに戻ってきてほしい。

【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)