13日に行われたプレミアリーグ・チェルシー-ニューカッスル戦(ロンドン)で、ニューカッスルのサポーターたちが、チェルシーをからかうチャント(応援歌)を繰り返した。

ご存じの通りチェルシーでは、ロシア人オーナーのロマン・アブラモビッチ氏が英国政府から資産凍結などの制裁を科せられた。クラブは事実上、政府の管理下に置かれ、近い将来、別のオーナーに売却される可能性が高い。

それにちなんで、ニューカッスルサポーターたちが「"Mike Ashely, he's coming for you."(マイク・アシュリー、彼がお前のところにやってくるぞ)」というチャントを歌ったのだ。

マイク・アシュリーとは、07年からニューカッスルを所有し、クラブ低迷の責任者として自軍サポーターから非難を浴び続けてきた前オーナー。そのひどいオーナーが、アブラモビッチ氏に代わってチェルシーを買収するぞとからかったのだ。

ただニューカッスルサポーターたちにも、そのうちブーメランが戻ってくるかもしれない。

アシュリー前オーナーからニューカッスルを買収したのは、サウジアラビアの政府系ファンド(Public Investment Fund=PIF)が主体の共同事業体。

PIFの会長である同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、18年にトルコでサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件において「拘束または殺害を承認した」と、米政府が結論づけている人物なのだ。

PIFらによるニューカッスル買収が決まった時には、人権団体などから多くの批判が集まった。

そんな流れもあり、チェルシーがハバーツのゴールで1-0で勝利したニューカッスル戦は、メディアから皮肉を込めて「スポーツウォッシング・ダービー」と呼ばれている。

スポーツウォッシングとは個人や企業、または国家がスポーツを利用して、自分たちの悪評を隠蔽(いんぺい)したり、消し去ったりすること。ロシア・プーチン大統領と強いつながりがあると言われているアブラモビッチ氏やサウジアラビアのPIFは、サッカーをその道具として使っていると批判されているのだ。

とはいえ「オーナーがどんな人物であろうと関係ない。多額の資金を注入し、チームを強化してくれればそれでいい」と思っているファンが多いのも事実。今でもアブラモビッチ氏を崇拝するチェルシーサポーターはたくさんいる。

リバプールのクロップ監督は「アブラモビッチ氏のお金がどこから来ているのか、みんな分かっていたはず。でも我々はそれを受け入れた。我々自身の間違いだし、社会としての間違いだった」と自戒を込めて話している。そのあたりの倫理観とお金のバランスをどうとっていくのかが、今後のプロスポーツ界に求められるものだろう。【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)