新型コロナウイルスの感染拡大によりリーグ戦が中断されているスペインでは、最近ようやく各クラブが再始動し、6月半ばのリーグ戦再開プランが現実味を帯びてきた。しかし健康面の安全確保が困難なため、残り11節すべてが無観客試合になる予定だ。

このような状況の中、特に被害を受けるのがスペインの1部リーグ合計で60万8000人いるアボノ(シーズンチケット)会員だろう。人気クラブともなると、アボノ会員枠はすでに全て埋まり、基本的には新規登録できず、常に「空席待ち」状態である。親子何代にも渡って名誉ある「アボノ」を手にする彼らは、毎試合スタジアムに足を運び贔屓(ひいき)クラブを支え続ける熱狂的なサポーターだ。

スペインの観戦チケット代はおそらく日本よりも割高である。しかしアボノでは格段に安く観戦できる。例えばバルセロナの場合、リーグ戦19試合のアボノ価格は150~1274ユーロ(約1万7250~14万6510円)に設定されている。一般チケットの最低価格が約50ユーロ(約5750円)であるのに対し、アボノでは1試合約8ユーロ(約920円)で観戦できる計算となる。そしてアボノ価格が245~2024ユーロ(約2万8175~23万2760円)のレアル・マドリードも同様だ。

アトレチコ・マドリードのアボノ価格は310~1325ユーロ(約3万5650~15万2375円)。今季はバルセロナ戦やRマドリード戦の一般チケットの最低価格が100ユーロ(約1万1500円)だったため、2試合分でアボノ代の約3分の2となる。またアボノ会員が試合に行けない場合、クラブがその座席を再販売し、売れた金額の半額が次シーズンのアボノ代から値引きされるお得なシステムも導入されている。

1部20クラブのアボノの1番安い座席の価格を比較してみると、久保建英所属のマジョルカが85ユーロ(約9775円)で最も安く、1試合当たり約4・5ユーロ(約520円)で観戦できる計算になる。一方、最高値のビルバオは398ユーロ(約4万5770円)で、1試合当たり約21ユーロ(約2400円)となっている。

その他、スペインビッグ3では、バルセロナが20クラブ中6位、Rマドリードが15位、Aマドリードが19位、そして、乾貴士所属のエイバルが210ユーロ(約2万4150円)で9位となっている。

ビッグクラブとの対戦で追加料金を求められることがあるが、この価格で試合観戦できることは、サッカーが“日常的な娯楽”であるスペイン人にとって最大の魅力である。

アボノ会員数に目を向けると、1部20クラブ中トップはバルセロナで8万5000人。カンプ・ノウの収容人数の約86%を占めている。続いてRマドリードが6万1247人で2位(サンティアゴ・ベルナベウの約76%)、Aマドリードが5万8101人で3位(ワンダ・メトロポリターノの約85%)。

そしてマジョルカが1万6125人で15位(ソン・モッシュの約70%)。最下位は乾貴士のエイバルでわずか5600人。しかしこれには、ホームスタジアムのイプルアの収容人数がわずか7083人という理由があり、アボノ会員の占める割合は79%と他と大きくは変わらない。

各クラブとも、今季はホームゲームの残り5~6節がすべて無観客開催となるため、アボノ会員への対応に追われている。そのような状況下、ヘタフェは一足早く、アンヘル・トーレス会長が今季1万3500人のアボノ会員に対して、ポケットマネーで来季を無料にするという英断を下した他、Aマドリードは来季2割引き、Rソシエダードは20%の払い戻しを発表している。

各クラブにとってアボノ収入は大きなものであり、今季は無観客試合になることで20%~30%の収入を失い、リーグ全体で8800万ユーロ(約101億2000万円)の損失が出ると見積もられている。さらに来季もこの状況が続く場合、例えばバルセロナやRマドリードは年間で約5000万ユーロ(約57億5000万円)の収益を上げているため、財政面へのダメージは計り知れない。

リーグ戦再開のめどは立ってきたが、現時点ではアボノ会員が再びスタジアムに足を運び、安全にサッカーを観戦できる日がいつになるのかは不透明なままである。そして選手たちは、常にスペインリーグの根底を支え続けてきた彼らがいないスタンドを見て、寂さを感じることになるだろう。

【高橋智行】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)