スペインリーグの「ピチチ賞(得点王、賞の名前は1910~20年代に活躍した選手名に由来)」は近年、リオネル・メッシ(アルゼンチン)やクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)のように圧倒的な力を示した外国人選手が占め、スペイン人選手が獲得することはなかった。

実際、直近の12シーズンは、メッシがバルセロナで7回、クリスティアーノ・ロナウドがレアル・マドリードで3回、ディエゴ・フォルラン(ウルグアイ)がアトレチコ・マドリード、ルイス・スアレス(ウルグアイ)がバルセロナで各1回受賞している。

最後にスペイン人選手が得点王に輝いたのはメッシ、クリスティアーノ・ロナウド時代到来前の2007-08シーズンのことで、27ゴールを記録したマジョルカ所属のダニ・グイサだった。

2000年代に入ってからの20シーズンでスペイン人選手がピチチ賞を受賞したのはわずか3回。ラウール、ディエゴ・トリスタン、ダニ・グイサの3選手のみ。

しかし今季は例年と状況が異なる。第9節終了時の得点ランキング・トップ10(※5位で8選手が並んでいるため12選手)のうち9選手がスペイン人選手となっているのである。

その大きな理由に、新型コロナウイルスの影響で各クラブが財政難に陥りクオリティーの高い外国人選手を獲得できなかったこと、ビッグクラブの消化試合数が少ないこと、ここ4シーズン連続得点王のメッシに衰えが見え始めていることなどが挙げられるかもしれないが、それを差し引いても、スペイン人選手の活躍が目立っているのは間違いない。現在、ピチチ賞争いで単独トップに立っているのはレアル・ソシエダードの下部組織出身のミケル・オヤルサバルである。

オヤルサバルは23歳ながら、キャプテンとしてリーグ首位に立つレアル・ソシエダードを引っ張り、今季のリーグ戦全9試合(先発7試合)に出場し6得点2アシスト、シュート3・16本ごとに1ゴール(総シュート数19本)を記録している。先月からの5試合でわずか3ゴールのスペイン代表で得点力不足解消が期待されており、先月行われたUEFAネーションズリーグのスイス戦では決勝点をマークし、結果を残している。

2位には5得点でスペイン人のパコ・アルカセル(ビリャレアル)、ウルグアイ人のルイス・スアレス(アトレチコ・マドリード)、ポルトガル人のジョアン・フェリックス(アトレチコ・マドリード)が続く。3選手はともにリーグ戦でそれぞれ2位と3位につける好調なチームを引っ張っている。

この中でパコ・アルカセルは今年1月、クラブ史上の移籍金最高額2500万ユーロ(約31億2500万円)でドルトムントからビリャレアルに入団した選手であり、その期待にしっかりと応えている。リーグ戦成績は9試合(先発9試合)、5得点2アシスト、シュート2・4本ごとに1得点(総シュート数12本)と決定力の高さを見せつけている。また欧州リーグでは途中出場の2試合、わずか36分間で4得点という並外れたハイパフォーマンスを披露し、スペイン代表復帰の声が日に日に高まっている。

5位には4得点で、ポルトゥ(レアル・ソシエダード)、ジェラール・モレノ(ビリャレアル)、アンス・ファティ(バルセロナ)、クリスティアン・テージョ(ベティス)、イアゴ・アスパス(セルタ)、カルロス・ソレール(バレンシア)、ホセ・ルイス・モラレス(レバンテ)のスペイン人7選手と、フランス人のベンゼマ(レアル・マドリード)が並んでいる。

このように、今季はスペイン人選手のパフォーマンスの良さが目立つため、13シーズンぶりにメッシら外国人選手の牙城を崩し、ピチチ賞を獲得できるかに注目が集まることになるだろう。

しかしスペインリーグは近年、得点力不足という大きな問題を抱えており、ここ5年間、リーグ全体の得点数が減少し続けている。さらに、今季のリーグ戦ここまでの1試合平均の得点数は、欧州上位10リーグでワーストとなる2・41得点。かつて点を激しく取り合ったスペクタクルなリーグの姿は見る影もなくなっている。

そのため今季好調のスペイン人選手たちとメッシ、ジョアン・フェリックス、ルイス・スアレス、ベンゼマなどのスペインリーグを代表する外国人FWが互いに刺激し合い、再び多くのゴールを量産する活気あふれるリーグに戻ることを期待したい。【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

ビリャレアルのパコ・アルカセル(ロイター)
ビリャレアルのパコ・アルカセル(ロイター)