10代最後となったヘタフェMF久保建英(19)のスペインリーグ2季目は、5月23日の第38節グラナダ戦で幕を閉じた。0-0の引き分けに終わったが、最終戦にフル出場した。

今季はビリャレアルとヘタフェでプレーし、リーグ戦31試合(先発10試合)に出場、1得点1アシストという成績だった。

振り返れば、スペイン1季目のマジョルカではシーズン序盤、監督の信頼やレギュラーの座を勝ち取ることに苦しんだ。その後、新型コロナウイルスの感染拡大や残留争いの厳しい状況を過ごしながらも、終盤戦は攻撃の中心となり、リーグ35試合出場(先発23試合)、4得点4アシストという好成績を残した。

マジョルカは最終的に2部に降格したが、久保はスペイン初年度にしてその能力を遺憾なく発揮し、昨夏はスペイン国内でも特にその去就に注目の集まる選手となった。

スペイン内外の約30ものクラブが獲得に乗り出したと言われる中、久保は欧州リーグ出場権を獲得したビリャレアルを選択。その理由として、スペイン国内でのプレー継続を希望し、年間40試合に出場できることを優先してチームを選び、新監督のエメリに強く求められたことが鍵になったと報じられた。

しかし、各国代表を多数そろえた選手層の厚いビリャレアルでのプレシーズン、猛暑の中で実施されたテストマッチ5試合で思うようなパフォーマンスを見せることができない。

右サイドハーフ、トップ下、左サイドハーフと攻撃のさまざまなポジションで試されたものの、大きな武器のひとつであるドリブルは徹底的に警戒され、今季何度も見られたように突破を図ってもファウルで止められた。プレシーズン5試合(先発3試合、286分)で0得点0アシストという結果に終わり、シーズン開幕からベンチスタートとなった。

そしてリーグ第3節バルセロナ戦で0-4の惨敗を喫したことで、エメリ監督はシステムを4-4-2から4-3-3に変更する。ダブルボランチからトリプルボランチに切り替わり、久保に適したポジションが右ウイングのみになったことが、さらにマイナスに働いた。

リーグ最初の6試合は途中出場が続き、1試合の出場時間は15~25分程度。久保が初めて先発出場したのは、8選手が入れ替わり控え組中心で臨んだ公式戦7試合目の欧州リーグ・1次リーグ初戦のシバススポル(トルコ)戦だった。

この一戦で久保は1得点2アシストというMVP級の働きを見せ、欧州リーグの週間ベストイレブンに選出されると、次のカディス戦でリーグ初先発のチャンスが訪れた。しかしその後も状況は改善されず、再びリーグ5試合連続で控えとなった。

エメリ監督はリーグ戦で久保を先発起用しない理由について「タケにはプロセスがある」と繰り返し、まだ成長段階であるため、少ない出場時間であっても耐えることを訴えた。

また、「タケのベストポジションの右サイドには、サム(チュクウェゼ)とジェラール(モレノ)との競争がある」と右ウイングが激戦区であるため、「左サイドでプレーするために成長しなければいけない」と、異なるポジションでプレーできるようになることを求めた。

しかし久保はポジション争いに勝つことができず、欧州リーグでは全試合に先発起用され、5試合(先発5試合、375分間)に出場し、1得点3アシストと十分評価できる結果を残した一方、18歳のジェレミ・ピノの台頭もあり、リーグ戦では控えという立場が続き、その成績は13試合(先発2試合、291分間)に出場し、0得点0アシストという厳しいものになった。

2年目のビリャレアルでさらなる飛躍が期待された久保だが、先日の代表戦でのインタビューで「スタメン争いに負けたというのはあるが、自分が思っていた状況とちょっと違っていた。いろんな話があった中でビリャレアルが一番いいと思って選んだが、その選択は間違いだった」と振り返り、今季前半が思い描いたようにはいかなかったことを認めていた。

久保は悪い状況を打開するため、「僕はまだ若いので、選手として感じることを必要としている。環境を変えた理由はそれ以外にはない。入団理由はいろいろとあるが、ヘタフェが僕に最も興味を持ってくれたクラブであり、最初から信頼を寄せてくれた」と出場時間を求め、今年1月に戦力強化を図ったヘタフェ移籍を決断した。

大雪の影響によりチーム練習ゼロで臨んだエルチェ戦に途中出場し、同じく今冬加入したアレニャとともにデビュー戦を勝利で飾り上々のスタートを切った。ボルダラス監督は試合後、「2人に満足している。現在、我々には戦術とポジションを変更できる、より多くのオプションがある」と戦い方の幅が広がったことを喜んだ。

続くウエスカ戦、久保を初めて先発起用したボルダラス監督は、システムを4-2-3-1に変更して攻撃的に戦う意欲を見せ、今季初の2連勝を達成し、今後への手応えを感じさせた。

しかし良い流れは続かない。久保はウエスカ戦から4試合連続で先発出場するも、チームは決定力不足に苦しみ(※最終的なリーグ総得点は28ゴールで20チーム中最下位)、勝ち星を取れず成績不振に陥った。

そこでボルダラス監督が取った策は原点回帰だった。システムを慣れ親しんだ4-4-2に戻したことでビリャレアルの時と同様、久保に適したポジションが1枚減り、古株の選手たちを再び重用した。以前と同じ保守的な戦い方にシフトチェンジ。守備にたけた選手が起用されたことにより、攻撃的な特徴を備える久保はレギュラーの座を失い、シーズンの最後までその状況が変わることはなかった。

当初、ボルダラス監督が久保に要求していたのは「右サイドに張り付いているのではなく、ペナルティーエリアや中央のエリアにもっと顔を出すこと」と、幅広くプレーすることだった。続いて控えにした状況下では「久保は成長しなければいけないし、フィジカル面を改善する必要がある」と足りないものがあることを指摘。そして「久保は並外れて素晴らしい選手だが、我々はよりバランスの取れたチームを探し求めている」と、残留争いを勝ち抜くために失点しないことに重点を置いたチームの特徴に合っていないことを示唆した。

戦い方を変更してもチームとしての結果が出なかったが、久保にチャンスはほとんど訪れなかった。活路を見いだそうと決断した移籍も失敗に終わるかもしれないと思われていた中、「試合に出場していない時も一生懸命練習に取り組んできた」と語っていたことがシーズン終盤に実を結ぶことになった。

残留争いも佳境を迎えたリーグ第37節レバンテ戦、残り15分で出場した久保がスーパーミドルを突き刺した。今季リーグ初得点を重要な局面で決め、チームの残留を決める大仕事をやってのけたのである。ヘタフェでのリーグ成績は18試合(先発8試合、802分間)に出場し、1得点1アシストで、ビリャレアル時代よりも出場時間を増やし、シーズンを終えていた。

今年6月4日に20歳の誕生日を迎える久保はこの後、東京オリンピックを戦い、欧州での3年目に挑むことになる。レアル・マドリードとの契約があと3年残る中、再びその去就に注目が集まることになるだろう。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

20年9月、開幕節のウエスカ戦でプレーするビリャレアルMF久保建英(撮影・PIKO)
20年9月、開幕節のウエスカ戦でプレーするビリャレアルMF久保建英(撮影・PIKO)