東京オリンピック(五輪)の男子サッカーで優勝候補の一角に挙げられるスペインは、得点面で苦しみ負傷者を出しながらも徐々に調子を上げており、欧州勢唯一の決勝トーナメント進出を果たした。

■1次リーグ1勝2分け首位通過

スペインの1次リーグ通算成績は1勝2分け、2得点1失点の勝ち点5で首位。スペイン国内のスポーツ法により、先の欧州選手権で準決勝進出を成し遂げた6人(ウナイ・シモン、エリク・ガルシア、パウ・トーレス、ペドリ、ダニ・オルモ、オヤルサバル)やレアル・マドリードのアセンシオなどを擁し、他国がうらやむ錚々(そうそう)たるメンバーをそろえているが、A代表同様、決定力不足が悩みの種となっている。

1次リーグ初戦エジプト戦はDFオスカル・ミンゲサ、この試合で一番いい動きを見せていたOA枠のMFダニ・セバージョスが立て続けに負傷交代を余儀なくされ、最後まで得点を決められずにスコアレスドローで終了した。

続く第2節オーストラリア戦、ルイス・デラフエンテ監督はターンオーバーを実施し、またもや得点に苦しむも、後半36分にマルコ・アセンシオのクロスボールをミケル・オヤルサバルが頭で合わせ、1-0で初勝利を挙げたが、最終節アルゼンチン戦ではミケル・メリーノが先制点を記録するも追加点を奪えず終了間際に今大会初失点を喫して1-1で引き分けた。

スペインはここまで参加16チーム中最多42本のシュートを打ち、17本を枠に飛ばすも、わずか2得点。これは仮にシュートを100本打った場合、4・76ゴールしか記録できない計算となり、スペイン紙マルカは「スペインはこれまでに参加したどの大会よりもゴールを決めるのに苦しんでいる」と深刻な状況であることを指摘している。

しかし、デラフエンテ監督がアルゼンチン戦後、「それはチャンスをものにするのがどれだけ難しいかを示す客観的なデータだが、我々が最も相手ペナルティーエリアに迫っているチームであることも物語っている」と反論すると、選手たちもこの意見に同調した。

ダニ・オルモが「僕たちは良いプレーをして多くのチャンスを作っている」と語ると、マルコ・アセンシオは「最も重要なのはチャンスを作っていることだ」とコメント。エリク・ガルシアは「欧州選手権でも同じことが起こっていたが、僕たちはこの後の試合で1ゴールさえ奪えれば十分勝利できる」と勝ち上がるために多くの得点を必要としないことを訴えた。

■ボール支配率は平均70%超え

スペインは大会前、練習不足による連係面が大いに懸念されていた。なぜなら五輪チームでの活動が2012年ロンドン大会以来9年ぶりであり、テストマッチが日本戦の1度のみだったこと、そして欧州選手権の参加メンバーがスペイン国内で一度もチーム練習に参加できなかったためである。

しかし指揮官や選手たちの言葉通り、それは杞憂(きゆう)だったようだ。スペインのシュート数はエジプト戦10本、オーストラリア戦15本、アルゼンチン戦17本。3トップのアセンシオ、オヤルサバル、ダニ・オルモに中盤のペドリ、ミケル・メリーノなどが絡み、試合を重ねるごとにチャンスの数を増やし、日々チームとしての完成度を高めている。

さらにボール支配率はエジプト戦71・0%、オーストリア戦72・8%、アルゼンチン戦66・1%、1試合平均70・0%と、即席チームながら“スペインらしさ”を全く失っていない。

また、安定した守備面が選手たちに大きな自信を与えている。少ない準備期間の中、ウナイ・シモン、エリク・ガルシア、パウ・トーレスの欧州選手権メンバーを中心に堅固な守備を築き上げ、失点はアルゼンチン戦の1度のみ。決定力不足の問題を抱えながらも、相手にほとんどチャンスを作らせることなくゲームを完全に支配してきたことが、優勝に向けた自信につながっているようだ。

■ブックメーカーで優勝候補筆頭

スペインはまた、日本の高温多湿の気候を懸念していた。そのため日本入りする前にスペイン国内で特に湿度の高い沿岸地域で合宿を張り、対策を講じて今大会を迎えている。最初の2試合を快適な札幌で戦った後、アルゼンチンと埼玉で対戦したが、この3戦目がスペインのここまでのベストパフォーマンスと評価されているため、気候にうまく適応していると言えるだろう。またパウ・トーレスは「札幌はそんなに湿気がなかったが、僕たちはどんな国に来ているのか分かっていたし、最初の数週間で気候に適応できるように努力してきた」としっかりと準備してきたことを明かしていた。

その他、欧州選手権参加メンバーの疲労が懸念されている。特にアルゼンチン戦で今季70試合目を戦い、オーストラリア戦の前半以外、輝かしいパフォーマンスを発揮できていないペドリのコンディションが心配されているが、「疲れはない。僕はプレーするのが好きだから大丈夫だ。信頼を寄せてくれる監督たちに感謝しているし、試合がたくさんあるけどうまく休めている」と否定すると、パウ・トーレスも「母国のために戦うのに疲労など全くないよ。人生で一度しか経験できない五輪で母国のために戦うという熱意や願望を持ち、全力を尽くす必要がある。残り3試合全てに出場したい」と決勝進出への意欲を見せ、疲労への問題がないことを強調した。

準々決勝を間近に控え、各ブックメーカーの優勝オッズを見てみると、スペインが優勝候補の筆頭になっているが、29年ぶり2度目の金メダル獲得に向け、毎回の課題となっている決定力不足を解消できるかが大きな鍵になるだろう。

スペインはこの後、31日に準々決勝で、1次リーグでドイツを退けブラジルに次ぐ2位通過したコートジボワールと対戦する。そして勝ち抜いた場合、日本とニュージーランドの勝者と8月3日の準決勝で顔を合わせることになる。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

25日のオーストラリア戦で決勝ゴールを挙げたスペインのミケル・オヤルサバル(左)(AP)
25日のオーストラリア戦で決勝ゴールを挙げたスペインのミケル・オヤルサバル(左)(AP)