<フットボールの母国から:第11回>

1年間に2度の準決勝進出! イングランド国民は、代表チームの2018年をそう振り返るのだろう。1990年W杯以来となる国際大会での4強入りが立て続けに実現した様子は、この国の人々に言わせれば、待てど暮らせど来ないと感じていると2、3台続けて到着する、「ロンドンバスのようだ」となるのかもしれない。去る11月18日、ロンドン市内北西部のウェンブリー・スタジアムで行われたクロアチ戦(2-1)で、今夏のW杯に続き、欧州ネーションズ・リーグでの準決勝進出が現実となった。

UEFA(欧州サッカー連盟)が今季から開催する欧州ネーションズ・リーグには、従来の国際親善試合に「毛が生えた程度」との否定的な見方もあり、W杯と同じ土俵で語ることのできる大会ではない。とはいえ、いざ王者となれば国際タイトル獲得に変わりはない。イングランド・ファンは、期待に胸を膨らませている。ロシア大会で予想をはるかに上回る成果を残し、母国民に「優勝を夢見てもいい」と思わせた、ガレス・サウスゲート率いる「新生イングランド」が成長と進化を続けているのだから無理もない。

ホームでのクロアチア戦は、勝てば、スペインもいたグループの勝者として決勝トーナメントに抜けるが、勝てなければ、3番手のグループ最下位でリーグB降格の危険も秘めていた。その大一番で先制されてもひるまなかった逆転勝利は、チームスピリットと集団としての自信がさらに高まっていればこその結果だ。

W杯前から指揮官が口にしていた、「攻めの姿勢」の浸透度が高まっていることは、ホームとアウェーで合計4得点4失点の1勝1敗ではあっても、攻撃で知られるスペインとの対戦で2試合とも先制している事実が物語る。そして、選手層も増している。同時にチームの平均年齢が、ロシア大会最年少だった26歳からさらに2歳ほど若返っているのだから、長期展望でチーム作りを推進するサウスゲートの信念と勇気には脱帽だ。

プレミアリーグが「外国人過多」である環境は変わらない。W杯明けの今季開幕1カ月目から、リーグ戦3試合でのスタメンに占める国産選手の割合は従来通りの約3割。“ビッグ6”こと強豪6チームでは2割にも満たなかった。だが、先代監督陣とは違い、選択肢の少なさを嘆くだけではなく、果敢に代表選手層の拡大に努めるあたりがサウスゲートだ。9月の代表戦では、レスターの21歳ベン・チルウェルを初招集。10月には、ドルトムントでプレーする18歳のジェイドン・サンチョと、チェルシーから国内2部のダービーにレンタル移籍中のメイソン・マウントも代表に呼び寄せた。同月の招集メンバーは、控えGKのアレックス・マッカーシーを除く全員が90年代以降の生まれ。臨むべきは、敵地でのクロアチア戦とスペイン戦だったのだから、サウスゲートの人選は大胆でさえあった。

続く11月の2試合を終えた現時点で、チルウェルは左SBのレギュラー候補と言って差し支えない。前月に3バックから4バックへと基本形が切り替えられた最終ラインでは、W杯を控えクラスとして過ごした20歳の右SBトレント・アレクサンダーアーノルドと、けがでロシア大会メンバーから漏れた21歳のCBジョー・ゴメスにも同じことが言える。サンチョは、11月15日のアメリカとの親善試合でフルタイムを経験して1アシストも記録。3トップのアウトサイドからハリー・ケーンをサポートする新戦力として、レギュラー格にラヒーム・スターリングとマーカス・ラッシュフォードを抱える指揮官に、うれしい悩みを与えるに至っている。

そのサンチョが、リーグB降格を避けるには2得点が必要だった終盤にラッシュフォードと交代したクロアチア戦、ピッチに立ったイングランド代表計14名の平均年齢は「23.4」歳だった。それほど若いチームが、スコア上は後半に先手を取られたものの、内容的には前半から主導権を握りながら結果も出してみせた。

サンチョと同時にベンチを出たジェシー・リンガードと、主砲のケーンが決めた同点と逆転の2ゴールは、いずれもセットプレーから生まれたものではあった。守備的になりがちだった以前を連想させる得点パターンに、試合後のサウスゲートも、「イングランドは生まれ変わってなどいないのかもしれない」と言って苦笑した。もちろん、過去との違いを確信しているが故のジョークだ。敗れたクロアチアのズラトコ・ダリッチ監督は、国際タイトルが「フットボールの母国に戻る日は近い」と語った。イングランドが、ロシア大会準決勝での雪辱を果たされた格好の敵将も進化を認める勝利で日程を終えた2018年。それは、本格的な「新生イングランド元年」であり、体の線は細くとも心の芯は太い指揮官、「サウスゲートの年」であった。(山中忍通信員)

 

◆山中忍(やまなか・しのぶ)1966年(昭41)生まれ。静岡県出身。青学大卒。94年渡欧。第2の故郷西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を時には自らの言葉で、時には訳文としてつづる。英国スポーツ記者協会及びフットボールライター協会会員。著書に「勝ち続ける男モウリーニョ」(カンゼン)、訳書に「夢と失望のスリー・ライオンズ」(ソル・メディア)など。