DMMが買収する前のシントトロイデンはベルギー1部で2ケタ順位が続いていた。予算規模も決して大きくない中、DMMはクラブ経営に勝算を見出し経営権を取得した。どこに活路を感じ、参入に踏み切ったのか。そこには、経営のプロだからこそ持っていたクラブ会長でDMM・COOの村中悠介氏(39)の逆転の発想があった。【取材・構成=岩田千代巳、浜本卓也】

シントトロイデンは人口4万人の小さな街だ。ベルギー国内の強豪クラブに比べ、予算規模も「J1とJ2の差」ぐらいの格差があるという。その中で、村中氏は経営に勝算を見いだした。シントトロイデンを含め、ベルギーの中堅クラブは移籍やスポンサー集めも国内が中心。Jリーグの方が、欧州や南米など世界各国から選手を獲得しグローバルな視点が備わっている。スポンサー集めも含め、目線をドメスティック(国内)からグローバル(国外)に目を向けることで、戦略の広がりを確信した。

村中氏 ここを有力選手のハブにして、もっと世界に発信しようという感覚がなかった。スポンサーも国内のクライアントしかいなかったんですよ。今は日本の企業が入ってくれたり。それだけで既に増収なんですよね。全部が伸びしろだと思ったんですよ。入場者数も少ないのも、めちゃめちゃドMなんで(笑い)「いいやん」と。数字が悪ければテンションが上がる。これ以上、下がるわけがないので。やろうとしていることが積み上げしかないと。やればやるほど、おいしいパス来てるぞと。

まさに逆転の発想だ。現場で強化を担当する立石敬之CEOは、東京でGM経験があり、既にグローバルな視点が備わっている。昨夏にはユベントスから選手を補強。セリエAとのパイプを築き、移籍のグローバル化も徐々に進んでいる。

スタジアムもフードの種類、レストランのメニューも経営が自由に設計できる。そこも魅力だった。現在、DMMが進めているのはスタジアムのIT化だ。チケット、フードやグッズの購入など、スマートフォンでのキャッシュレスに取り組んでおり、購入者の年齢層や性別のデータが取れる仕組みだ。この仕組みが成功すれば、他国でのビジネスにつながる可能性を秘めている。

経営に参入した際、現地で「どこを目指しているの?」と聞かれた。ベルギーリーグはゲンク、クラブ・ブリュージュ、アンデルレヒトなど強豪が上位に定着するのが常のリーグで「プレーオフ1(6位以内)」と答えると懐疑的な反応が返ってきたが、現在は5位と躍進。プレーオフに入れば放送権がアップしさらに増収につながる。決算は先だが「シーズン途中で言えば予定通り。上振れがどこまであるか」と増収を見込む。旧体制に慣れていたスタッフと、グローバルな視点を持つ新スタッフの融合させるマネジメントには時間がかかったそうだが「1年前から考えたらすごく進歩はしている」と手ごたえを口にする。

村中氏 やればやるほど上がる。否定できるところは直せるところ。スタジアムもフード、導線を含め改善の余地がたくさんある。

現在のシントトロイデンは、日本選手同様、経営面でも大きな可能性を秘めている。

◆村中悠介(むらなか・ゆうすけ) 1979年(昭54)7月12日、北海道・苫小牧生まれ。高校卒業後、都内のゼネコン企業勤務後、02年DMM.comに入社。動画配信事業の営業担当を経て、事業責任者を務める。11年に取締役就任。アミューズメント、電子書籍、アニメーションなど多岐にわたる事業を立ち上げる。17年11月、シントトロイデンの経営権取得後、同クラブの会長就任。18年2月、DMM.comのCOOに就任。現在は40以上ある事業を統括している。

◆DMM.com 99年11月設立。インターネット事業部としてビデオ通販、動画配信サイトの立ち上げ準備を開始し、02年7月、インターネットサイト「DMM」をスタート。03年からDVDオンラインレンタル事業に参入し、CD、コミックにも広がる。06年、PRIDE男祭りのライブ、08年にはX JAPANのライブを配信し話題に。16年に会員数2000万人を突破。