2月18日。FAカップ第5回戦でマンチェスター・ユナイテッドが敵地でチェルシーを2-0で下した。

勝利監督が8強以上の成果を手にし、敗軍の将は現実的なタイトル獲得の可能性以上のものを失ったビッグゲームとなった。

昨年12月後半からマンUで暫定指揮を執るオレ・グンナー・スールシャールは、正監督昇格への信ぴょう性を得たといえる。前週にパリ・サンジェルマンに敗れたCL戦で就任後の無敗が11試合連続で途絶え、スールシャール体制の真価が問われた強豪対決で、過去2カ月間で最高のチームパフォーマンスとも評される勝利を実現したのだ。

復活が歓迎されるクラブ伝統の攻撃姿勢は、チームの2得点がボックス内に走り込んだMF2人のヘディングによってもたらされた事実からも明白。極上のクロスで先制アシストもこなしたポール・ポグバは、ジョゼ・モウリーニョとの確執が取り沙汰された前体制下からのムード好転を象徴する1人でもある。もう一方の得点者アンデル・エレーラは、試合後に「敵にどう対処すればいいかわかっていたからね」と発言。攻撃志向の暫定監督は、対戦相手の長所を消すための準備にも入念なようだ。

戦術論を振りかざすタイプではないスールシャールだが、この日に採用したダイヤモンド型の中盤も奏功した。頂点のトップ下を任されたフアン・マタは、チャンスメーカーとしては目立たなかったが、敵の中盤の底でプレーメーカーとなるジョルジーニョをけん制し、知的かつ効果的に自軍の勝利に貢献していた。また、先制されたチェルシーが反撃に出ると、2トップの一角で先発したマーカス・ラッシュフォードに、攻撃的な相手左サイドバックのマルコス・アロンソのケアを指示。その数分後には、アロンソの背後をついてドリブルで上がったラッシュフォードのクロスがポグバの追加点を呼んでもいる。

後半のスタンフォード・ブリッジには、表面的には守勢だが無難にリードを守るスールシャール軍をたたえる、「オレがかじを取る…」と始まるマンUサポーターの歌声が響き続けた。アウェーチーム用VIP席にいたエド・ウッドウォードCEOは、敵地にこだました自軍ファンの合唱を、現体制続投を願う多数の「信任評」と受け取ったことだろう。

ホームのチェルシー・ファンも、新体制下のチームに向かって声を出してはいた。ただし、監督に対する非難の声。今季から指揮を執るマウリツィオ・サッリは、サポーターの支持を失った。

サッリ率いるチェルシーは、過去2カ月の間に計5敗を喫していた。リーグ戦前節では、マンチェスター・シティに屈辱の6点差大敗。続くEL戦ではマルメに辛勝したが、立ち直り具合の正当な尺度とされたマンU戦で今季6試合目の0封負けに終わった。ホームの観衆は、采配的中の相手監督とは対照的に、基本の4-3-3システムから、後半に同じポジションで選手を入れ替えるベンチワークまで、相変わらずのサッリに業を煮やしたようだ。

筆者は、新監督に時間を与えるべきだと考える少数派の1人。悪くいえば「ワンパターン」な特定の戦い方へのこだわりは、チームのサッカーが好評だった古巣ナポリ時代から。この日も、前半は、ほぼ互角の内容で攻め合った。

後半には、ショートパスを素早くつないで攻め続けるサッリのスタイルに通じるスピードと脅威が、エデン・アザールのドリブルにしか見られなくなったが、裏を返せば、少なくともチーム最大の武器が指揮官を見捨ててはいない証拠でもある。後方のもろさは、新監督が求める能動的な守り方をチームが頭と体で覚えれば改善されるだろう。

だが、チェルシーというクラブは、今世紀に築かれた強豪ステータスの土台が堅守にあることもあってか、守備が心もとない目の前の不安が攻撃的な将来への期待を上回る傾向が強いのかもしれない。8年前、新進気鋭の若手監督として、やはりスタイル変更に着手したアンドレ・ビラス=ボアスに対し、ホームでの公式戦初采配にして、0ー1で迎えたハーフタイムに軽くブーイングを浴びせたのがスタンフォード・ブリッジの観衆でもある。

60歳で就任8カ月目のサッリが、マンU戦終了時に浴びたブーイングは、ホーム観衆の大半が唱えたと感じられる音量だった。その10分ほど前、スタンドのチェルシー陣営から沸き起こった「朝にはクビだな!」というチャントは、より辛辣(しんらつ)で深刻。当人は、試合後の会見で「ファンの反応は気にならない」と答えているが、こらえ性のなさで知られるロシア人オーナーの下、経営陣の公的な「顔」でもあるブルース・バック会長の耳には、新監督の早期解任を正当化する理由が届いたようなものだ。

結果、チェルシー新監督が、自身初の主要タイトル獲得を懸けてマンCと戦うはずだった2月24日のリーグカップ決勝は、直前のEL32強マルメ戦第2レグの勝敗にかかわらず、自身の首を掛けた一戦になりそうだ。そして、同日のマンU暫定監督は、勝てば正監督当確と言われるようになったリバプールとのリーグ戦に臨む。【山中忍】