ドイツ1部リーグは18日に開幕する。アイントラハト・フランクフルトでプレーする日本代表MF鎌田大地(24)が15日までにオンラインで日刊スポーツの取材に応じた。昨季はドイツの名門で欠かせない主力に成長し、日本代表デビューと初ゴールも記録。市場価値も15億円超と急上昇中。充実の海外4年目を迎える男が、決して平たんではなかったここまでの道程や今後について語った。

  ◇    ◇    ◇

「アイントラハトの魔術師」。鎌田の昨季ベストプレーの1つであるドリブルは、クラブの公式ツイッターで、そう紹介された。6月13日のヘルタ戦。相手を手玉に取るような鮮やかなドリブルでDF3人を抜き、ラストパスでアシストした。昨季は公式戦48試合に出場し10得点。欧州リーグではザルツブルク戦でハットトリックし、強豪アーセナルから得点を挙げた。それでも本人は満足感に浸らず「リーグ戦では2得点。もったいないというか、あとひとつ、つかみきれなかった」と謙虚に課題を口にした。

昨年10月に初得点した日本代表では1トップも、フランクフルトではトップ下で起用される。サイドからチャンスを作りながら、中盤で司令塔の役目も果たす。「足が速いとか、ドリブルやパスすごいとかではない。全体的になんでもできるのが他の選手と違うのかなと思う。チームでも僕の役割をできる選手はなかなかいない」。

自らを信じ抜き、踏ん張る力。それが鎌田の芯にある。「昔から無名だった。うまくいかないことが多いサッカー人生だった」。G大阪ジュニアユースから昇格できず、京都・東山高へ進学。世代別代表の経験もない。鳥栖でプロ入りも、上位争いの経験はない。「目標を自分の中で整理してずっと頑張り続ける力が、他の選手よりもあるのかな」と自身を分析した。

雌伏の時があった。フランクフルトに加入した1年目の17-18年。「正直に、今までで一番苦しかった」と明かす。「最初の半年は、周囲との力の差を感じた。シーズン後半で僕自身が良くなってきても、チームが固まっていたので入る隙がなかった」。練習では意識して、誰よりも点を決めた。ただ、序列は覆らなかった。「無名だったし、試合に出ないと次のクラブを決めるのも難しい。(試合出場が)ノーチャンスで先が見えない、そして将来の不安で、メンタルはかなり難しかった」。

もどかしい1年目を終え、出場機会を求めてベルギー1部シントトロイデンへ向かった。心は決まっていた。「力を周囲に見せつける。一番わかりやすい得点にこだわる」。必要なものは数字と割り切った。「今までならパスを出すところもシュートにいった」。リーグ34試合15得点。文句なしの数字を残した。

周囲の視線の変化を感じた。1年目は練習時の立ち居振る舞いですら、やる気がなさそうに見えると指摘されることもあった。「試合に出れば見方は変わる」と信じ、毎日居残りで筋力トレーニングと走り込みを繰り返した。苦しさに耐え、コツコツと鍛えた体で、ベルギーを席巻。1シーズンで再びドイツに戻った。「帰ってきて、よく記事で『性格が変わった』『明るくなった』と書かれた。僕自身はまったく変わってない。周りが変わった」。ドイツの移籍専門サイト「トランスファーマーケット」によれば、市場価値はシントトロイデン加入時の100万ユーロ(約1億2500万円)から、12倍の1200万ユーロ(約15億円)に急上昇。不屈の精神で培った実力を、数字で裏打ちした。

1年目で感じた壁を打ち破り、迎える海外4年目。目標はリーグ戦でゴールとアシストを合わせて15以上とした。「可能な数字。リーグ戦に集中でき、結果を残すチャンス。ビッグクラブにいくためには、今年が大事になる」。最大の夢は欧州CL優勝。開幕が迫った今季、さらなる躍進への決意は強い。【取材・構成=岡崎悠利】

◆鎌田大地(かまだ・だいち)1996年(平8)8月5日、愛媛県伊予市生まれ。中1でG大阪ジュニアユースに入団したが、ユース昇格は果たせず、京都の東山高に進学。高3時には高円宮杯プレミアリーグ西地区で10得点。5クラブ争奪戦の末、15年に鳥栖入りし、クラブ最年少の20歳2カ月でJ1通算10ゴールを記録。17年7月から海外リーグでプレーする。国際Aマッチ通算4試合1得点。180センチ、72キロ。