今年2月に海外挑戦を実現させた期待の大器がいる。FW原大智(21)。クロアチア1部イストラに移籍し、現在カップ戦で決勝に進出している。20日の大舞台で強豪ディナモ・ザグレブに勝利すれば、移籍1年目でいきなりタイトル獲得というチャンスだ。現在6ゴール3アシストと好調のストライカーがこのほどオンラインで取材に応じ、現地での競技生活や将来への思いなどを語った。

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古くはローマ帝国に支配されていた歴史を持つイストラ半島を本拠地とするクラブが原の海外初のチームとなった。街にはコロッセオに似た建造物が残り、目の前には透き通った海が広がる。「日本にはない場所。街も、人も、温かい」。パソコンの画面越しに原は笑顔を浮かべた。

今年2月、下部組織時代から過ごしたJ1東京を飛び出した。「海外でプレーしたかった」。移籍は自身の志に素直になった決断だった。加入時、イストラはリーグ10チーム中の最下位。「なにかが懸かったチームにいるのはおもしろい。モチベーションになる」と、自分の手で残留させるくらいの意気で合流した。現在は9位。残留争いは続いている。

190センチ、84キロ。空中戦を生命線とするFWと思いきや、身長が伸びる前の中学時代までに培った高いシュート精度と惜しみなく走る献身が武器だ。東京時代もほぼ毎日、練習場に一番乗りしてシュート練習を重ねた。「今は高さを生かしたプレーの力を伸ばしているところ」と、生まれ持ったものも武器とするべく努力を重ねている。

日本にはなかった生活も楽しんでいる。寮生活だった東京時代から、海外での1人暮らしになった。スーパーでは翻訳アプリを使い、クロアチア語の説明を読んで、調味料をそろえた。

競技生活も異なる。クラブのトレーニングルームは一般開放されており「街のお兄さんと一緒にジムを使っています。おもしろい感覚です」と笑う。チームが地域に溶け込み、まさに一体となっている。選手以外の人々とあいさつを交わすだけでも、町のあたたかさを感じることができる。

海外では英語は必須。現在は所属事務所の紹介で、オンラインで英会話に取り組んでいるという。「まだまだ全然です」と謙そんしたが、加入当初に比べるとかなり聞き取って話せるようになった。

将来の目標は4大リーグのビッグクラブでプレーすること。クロアチアを選んだことについては「日本で結果を出せなかったので、実力を受け入れて、活躍しないといけない」と、自身を客観的に見ている。同じ五輪世代で主要リーグに挑戦している選手もいる。敬意を表しつつ「遅咲きでもいいので、“早く”よりも“高く”いける選手になりたい」と焦りはない。

ここからステップアップを果たすために、まずは目の前にカップ戦決勝という大きな舞台が待っている。「勝って歴史に名を刻むことが誇らしいし、とにかく楽しみ。勝ちたい」。充実感にあふれる力強い口調で、タイトル獲得を誓った。