「埼スタ」のピッチには、いろんな思いが詰まっている。前夜(7月25日)、サッカー男子日本は、この地でメキシコに2-1で勝利。1次リーグ突破へ王手をかけた。勝利を喜び合うファン、鼓舞するサポーターの姿は、スタンドにはない。無観客での五輪。その中で、DF酒井は「絶対勝たないといけないスタジアムで最高の勝利でした!」と自身のSNSに投稿した。今夏、浦和に加入する右サイドバック(SB)。ホームでの勝利の意味合いを分かっている。自身に宿命付け、プレーで証明した。

“浦和人”として「埼スタ」は特別な場所。この地を目指し、育った兄弟がいる。弟の名はDF橋岡大樹(22=シントトロイデン)。兄はアルビレックス新潟シンガポールで主将を務めるDF橋岡和樹(24)。ともに浦和の下部組織で育った。埼玉で生まれた2人にとって「埼スタ」は身近なものだった。弟大樹はユースからトップチームへ昇格を果たし、浦和でプロのキャリアをスタート。一方、兄和樹はトップへの昇格を果たせず。明大を経て、シンガポールでプロとしての道を歩む。

兄は、弟を誇りに思うという。そんな感情に浸ったのも「埼スタ」だった。4年前。弟大樹はユースに所属しながら、トップの試合に出場した。兄はスタンドからその勇姿を見届けた。兄弟は比較されるもの。兄は言う。「劣等感を感じている時期もあった。弟にあって、僕にないものとかを考えていた。でもそれは違った。自分にしかないものをエンジンにできた。1つのモチベーションが大樹だった。今は彼に対してねたみはない」と振り返る。「埼スタ」を分岐点に大人の階段を上り、自分の道を模索してきた。

幼少期からともに「プロになる」と言い続けた。兄はシンガポールで夢を実現させ、弟は浦和でその夢をかなえ、五輪の日本代表メンバーにまで名を連ねた。ここまで出番はないが、総力戦の五輪では何が起こるか分からない。兄和樹は「兄として、本当に誇りに思う。1人のサポーターとして応援している」。シンガポールから、そんなエールが届いた。メキシコ戦を終え「埼スタ」を後にして、思い出した。兄の弟を思う素直な気持ちを。【栗田尚樹】