2021年の日本サッカーを振り返ると、日本代表主将のDF吉田麻也(33=サンプドリア)が、最も「働き者」だったのではないだろうか。年の瀬に1年を振り返り、そう感じている。

ワールドカップ(W杯)カタール大会を目指すA代表と、1年延期となった東京五輪の男子日本チームで、ともに主将を務めた。

A代表では国際Aマッチ9試合、五輪代表でも10試合。何と計19試合にキャプテンマークを巻いて先発し、ほぼフル出場した。

東京五輪では準決勝と3位決定戦で敗れ、メダルをつかみ損ねた。フル回転したが、結果はほろ苦いものだった。

ただ、フル稼働する中で、そのプレーに加えキャプテンシー、発信力は、歴代日本代表の素晴らしいキャプテンたちに肩を並べるほどの強い印象を残した。

その吉田の武器の1つが、コミュニケーション能力だ。長く英国でプレーし、海外での生活は10年をこえた。英語をしっかり身につけ、会見や取材にも英語で、海外メディアに応じている。

これまであまり語られることのなかった、英語について、吉田がこのほど、音声メディア「Voicy」上での3回の対談で、明かしている。

聞き手は、同時通訳者で英語コーチでもある田中慶子さん。田中さんは、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ、ビル・ゲイツ氏、米歌手テイラー・スウィフト、などの通訳を務めた第一人者。「田中慶子の夢を叶える英語術」というチャンネルで、対談が実現した。

日刊スポーツでは、28日までに、言葉を使ったコミュニケーションのプロフェッショナル、田中さんに、日本サッカーのリーダー、吉田の持つ「力」ついて聞いた。

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田中さんは、まず「サッカーのことは、情けないほどに、まったく何も分からない、素人なんです」と、申し訳なさそうに口にした。

ただ、縁あって知り合った吉田の人柄に魅了され、一気にサッカーのとりこになったという。

-吉田選手の魅力を教えてください

田中さん 考え方や、人となりなど、いろいろあるのですが、吉田選手の著書に『若いときから世界を目指していた。だから英語を頑張った』という部分があり、やりたいことがあって、そのために必要な英語を学ぶ。若いときから、その通り、やってこられて、それをやり続けることができる吉田選手を、尊敬しています。

私が、英語について日本人の方に伝えたいのは、必要な英語だけ身につければいいということ。ネーティブのレベルを目指すという考えではなく「夢や目標を実現するために必要な英語だけ、身につければいい」と思っています。

-吉田選手の英語力を、どう感じていらっしゃいますか

田中さん 全く問題ないレベルだと感じました。通訳をつけることもできたと思うんですが、吉田選手は初めての海外挑戦のときから、あえてそうしなかった。対談の中で、奥様の出産の話もされているんですが、そういった場面でも、英語を学ばれたということでした。

あえて自分でやることで、アンテナを高くして、感度を上げる。おこがましい言い方ですが、一流の人って、こうなんだなと思いました。サッカーをやっているだけでも大変なのに、生活する上での言語の感度もあげている。大変なこともいいチャンスだととらえていらっしゃいました。

-サッカー以外の部分でも、強い印象を受けたということですか

田中さん 私はサッカーのことがまったく分からないんです。ただ、みなさんでお話ししていると、自然とサッカーの話になって、私は、ポカンとしているわけです。そうすると、吉田選手が、私にも分かるように、その状況を察知して、説明してくださるんです。

たとえば、オリンピックの話になって、ポカンとしていたら、とにかく慶子さんは『6回勝つということだけ考えて、一生懸命応援して下さい』と言われたんです。つまり、それは金メダルを取るということだったんです。

吉田選手は、サッカーが好きで、追い掛けて、その過程に英語があった。ご自分がサッカーで成功することを願っていると思うんですが、みんなにサッカーを好きになってほしいという強い思いがあるように感じるんです。私のような、サッカーを全く分からない人にもサッカーを好きになってほしいと、気を配ってくださるんです。私が吉田選手を尊敬している理由の1つです。

-通訳として、意思疎通をどう感じていらっしゃいますか

田中さん 通訳をしていて、いろいろ思うところがあります。通訳をつけるべきだと思えば、つければいいですし、とにかく、使い分けだと思います。

言語が違う中で成功をつかむ人は、その使い分けがうまくできる人ではないでしょうか。カタコトでも、今は話した方がいい、いや、今は通訳をつけた方がいいと、使い分けができる人がいい。

これは、通訳として感じることですが、ビジネスマンでも全く同じです。正確な、専門的な交渉では通訳をつけている人でも、食事の場面では、打ち解けよう、自分を分かってもらおうと、自分で話す方もいらっしゃいます。場面場面で、何が効果的か分かる人が、成功する人だと思います。

-通訳として、これまでの経験から、一流といわれる人たちの共通点があれば、教えてください

田中さん あえて逆の、「残念な人」の例をお話しすると、「英語コンテストに出ていると勘違いしているんじゃないか?」と思いたくなるような、英語の能力だけで、自分が評価されていると思ってしまっている人が、結構いらっしゃいます。

無意識だと思うのですが、多くの場合、英語力よりも大切なのは仕事の中身です。ですが、「英語をいかにうまく話すか」だけに、気持ちがいってしまっている人が多いように感じています。

自分の目的はこれだというのがブレない人。それこそが、一流だと思います。

場合によっては、英語が苦手なことを、うまく利用することだって、いいと思います。あえて通訳を入れることで、訳している間の時間を、交渉の際の考える時間にしている人もいました。

英語が苦手だからこそ、武器になることもあると思いますし、世界で活躍できるなと感じる人は、英語がうまい人ではなく、状況をうまく使える人なんじゃないかなと、思っています。

-吉田選手は、ここ最近は、イタリア語もメキメキ上達しています

田中さん とにかく、言語化するのが、すごくお上手ですし、「人」が好きだというもの、すごく感じます。

あんなに人と話したいと、普通、感じるものなのかな? と私なんかは思ってしまいます(笑い)。

サッカー以外の分野のいろんな人たちとも、あえてつながりを持つ。そういう部分が、愛され、リーダーとして慕われる理由なんじゃないかと思うんです。(聞き手・八反誠)