欧州リーグ(EL)の決勝セビリア(スペイン)-ローマ(イタリア)戦が5月31日(日本時間6月1日)、ハンガリー・ブダペストで行われる。歴代最多6度の優勝を誇る「ELの盟主」セビリア、イタリア勢24季ぶりの優勝を狙うローマの2強が激突する注目のカードを、セルビア代表の喜熨斗勝史コーチ(58)が分析する。この一戦はWOWOWが生放送、生配信する。
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5月18日、スペイン・セビリアの地に喜熨斗コーチはいた。セルビア代表を抱える両チームが対戦するEL準決勝セビリア-ユベントス戦を視察するためだ。真っ赤に染まったホームの期待に応えて劇的な勝利で決勝進出を決めたセビリアを、喜熨斗コーチはどう見たのか。そして、あまたのタイトルを獲得してきた名将モウリーニョ監督率いるローマをどう分析したのかを聞いた。
喜熨斗コーチ 決勝はセビリアがボールを握ってローマが狙い通り我慢して守るという展開になると思います。矛のセビリア、盾のローマと言った感じでしょうか。セビリアは準決勝第2戦で実際に視察しましたが、選手層、チームの格ともに上のユベントス相手に圧倒していました。現状で言うと、セビリアの方が実力的に上だと感じました。パスをつなぎ、ドリブルでしかけ、優位に試合を進めていましたから。ローマは配信動画でチェックしましたが、レーバークーゼン相手にとことん守り倒しました。第1戦を1-0で制していたので、第2戦は引き分けで良かった。とは言え、ボール支配率はレーバークーゼン72%、ローマ28%。シュート数は23本に対し1本。攻める気が無いのでは?と思ってしまうくらいでした。ただ、それが、まさにモウリーニョ監督の戦い方です。勝つためには何が効率的なのかを極めた監督です。ある意味すごみがあります。
セビリアは今季、不振のために監督が2度交代。現在、指揮を執るのは2月に就任したメンディリバル監督だ。元日本代表で現J2清水のFW乾貴士がエイバル時代に指導を受けた監督だ。
喜熨斗コーチ 今回、セビリア視察で会話する機会がありましたが、コミュニケーション能力が高い好人物だと感じました。セルビア代表のDFグデリらからも『哲学的というか、選手のモチベーションコントロールがうまい監督だ』という評価をされていました。リーグ戦は中盤までの不振でリーグ戦こそ10位に低迷していますが、メンディリバル監督就任後は8勝5分け1敗(5月27日現在)と立て直しに成功しており、クラブや選手、サポーターからの支持も絶大。契約は今季終了までですが、現地では契約延長という話ももちろん出ていました。彼の指導歴は育成年代からスペイン一筋。スペインサッカーの一長一短を理解した上でチーム作りを進めます。そのあたりもプラスに作用していると思います。
対するローマの指揮官はモウリーニョ監督。国際経験を含む実績面は欧州屈指で、「勝つサッカー」を志向する。
喜熨斗コーチ 近年、守ってカウンターで勝てばいいというような風潮が若干あるのが気になっています。モウリーニョ監督はそれ以前から守りを固めてカウンターを狙う、勝つためにはどうすればいいかを逆算しているようなサッカーをしています。14-15シーズンにプレミアリーグを制したチェルシーを指揮していた時も最たる例でしたし。今回の決勝も手堅くくると思います。
それでは、それぞれのチームのキーマンを挙げるとすれば誰なのだろうか。
喜熨斗コーチ セビリアはセルビア代表でもある中央のDFグデリ、モロッコ代表GKブヌが守備の中心で、中央のMFラキティッチがゲームをコントロールして、サイドのFWジルとFWオカンポスがスピード豊かに中央にグッと入ってくる。ただ、決定力に欠けるため、最後を仕上げる選手が出てくるとさらに勝ちに近づくでしょう。ローマは3バックでカウンターを狙ってくると思います。そのカウンターで少ないチャンスをいかに仕留めるかがポイントでしょう。そういう意味で前線のFWアブラハムとFWベラッティがキーマンですね。その2枚の速さをどういかすか。実はセビリアのセンターバックはグデリを含めスピードに欠ける部分があります。実際、準決勝第2戦でユベントスがスピードのあるセルビア代表のFWブラホビッチ、MFコスティッチを途中から出場させたのですが、セビリア守備陣がそのスピードに翻弄(ほんろう)され、ブラホビッチにゴールも許しました。モウリーニョ監督は当然そのあたりは把握しているはず。いかに突いてくるか注目です。
セルビア代表のストイコビッチ監督をコーチとして支え続けている喜熨斗コーチにとって、今回の決勝では別の側面から注目する2選手がいるという。セビリアDFグデリとローマMFマティッチの新旧セルビア代表だ。
喜熨斗コーチ 我々がセルビア代表の指導に入った時、中盤に君臨していたマティッチを代表から外したのです。その理由は同じボランチに優秀なグデリがいたからでした。その際、代表スタッフにはマティッチを外したことに対する批判があったのも事実です。マティッチは当時も現在もサイズも技術も判断力もある素晴らしい選手ですから。一方で、グデリは代表にとって重要な選手になりました。現在、セビリアでグデリはセンターバックをしていますが、もともとのポジションはボランチです。我々はセビリアでセンターバックで起用されている彼の姿を参考にして、代表でも同じポジションにコンバートして成功しました。この2人は代表に残った、外れた理由を理解しています。だからこそ、ELのピッチ上でどのようなプレーをするか、楽しみです。
欧州トップレベルで指導をする喜熨斗コーチは、「矛」のセビリアが、「盾」のローマをどのように崩すかに注目している。
喜熨斗コーチ ローマもがっちり守るでしょうけど、準決勝第2戦のユベントスも5バックでかっちり守ってきました。そんなユベントス相手でもセビリアは本当にしっかり攻めました。ドリブルで仕かけて、クロスを入れて何度もチャンスを作った。セビリアの持ち味の1つが攻守の切り替えの速さなのですが、ユベントス戦も後ろの5枚にボールを取られても、すぐに切り替えて前線からプレスに行き、取り返して攻め直していました。攻撃的に試合を進めながら、いかに守り、そこから再び攻めに転じるか、という教科書のような戦い方でした。前日も攻守の切り替えを入念に練習していました。試合に向けた対策ではなく、チームが常に取り組んでいること。それがユベントス戦にも確実に発揮されました。ローマがガチガチに守っても、同様の試合運びでセビリアが優位に試合を進めると思います。個人的には、このように攻撃的なサッカーを繰り広げるチームが頂点に立ってほしいと感じています。