

中国北西部の新きょうウイグル自治区にある和田(ホータン)は、紀元前から仏教文化が栄え、シルクロード西域南道の要衝にあったオアシス都市である。玉とじゅうたんの産地として世界的に有名だが、一方で世界有数の長寿郷ともいわれている。過酷なタクラマカン砂漠に接する秘境の地がなぜ? その秘密を探りに現地を訪れた。
タクラマカン砂漠の秘境の地

南に崑崙(こんろん)山脈をあおぎ、タクラマカン砂漠に南接するホータン周辺は、年間降雨量30ミリ、蒸発量2800ミリという超乾燥地帯だ。成田から北京、烏魯木斉(ウルムチ)を経由し、半日以上かかってホータンに到着したわれわれ取材班は翌朝、車で砂じんをあげながら、ホータン市街を出発した。目指すは、東に約300キロ離れた人口約3万人の民豊県・尼雅(ニヤ)。かつて西域三十六国のうち「精絶国」と呼ばれた小国があった所である。
「タクラマカン」とはウイグル語で「入ったら二度と生きて戻れない」の意。ポプラ並木や麦畑が広がるオアシスの市街地には人々のけん騒があるが、いったん緑地を離れれば、動植物の影さえ見えなくなる。このニヤは、4世紀に河の流れが変わったことで、町はうち捨てられ「精絶国」の名も歴史から消えてしまったという。
そんな厳しい自然環境下にありながら、この地区では100歳を超える老人が珍しくないという。長寿研究で有名な森下敬一博士(国際自然医学会会長)によると、10万人に対して187人の割合で100歳老人がいる村の存在も確認されている。日本の長寿県のひとつ、沖縄でさえ51人の割合だから、そのすごさがうかがえる。
ニヤの中心街からさらに30分ほど車を走らせると小さな集落が見えてきた。昼食どきの戸外では煙が立ち上り、女性たちが食事の準備に忙しく動いていた。一軒の民家を訪れると、90歳を超えるウイグル族の3兄弟とその親族たちが笑顔で出迎えてくれた。
◆ホータン : タクラマカン砂漠と崑崙山脈に挟まれた場所にあるオアシス都市。人口170万人余りのホータン地区の中心都市。人口の97%がウイグル族。西域三十六国「うてんこく」の故地で仏教を国教と定め、「伽藍は百余ヶ所、僧都は五千余人」(大唐西域記)とうたわれた仏都であった。その後、カラ・ハン朝の支配によりイスラム・トルコ化が急激に進み、新きょうで最もウイグル族の割合が高い地域となっている。7世紀に玄奘三蔵が、13世紀にはマルコ・ポーロが訪れた。飛行機はウルムチから週7便が飛んでおり、日本からは北京や上海を経由してウルムチに入る。
食生活の中心にカンカがあった

昼食のメニューは羊肉の煮込み、焼き物、小麦粉を焼いたナン、木の実、たまごなど、どれも土地で取れたものばかり。イスラムでは豚を食べないため、このあたりでは、羊が食材の基本になる。食事をとりながら、一族の最年長である3兄弟の長男スリマホンさんがゆっくりと口を開いた。

「長寿の秘訣は3つあるよ。ストレスをためないこと。羊の乳から作るヨーグルト。それにカンカじゃよ」。99歳の高齢ながら、言葉にもよどみがない。毎日畑に出て体を動かすのが日課というとおり、その表情にもいまだに精かんさを残す。
以前、日本のテレビ取材が入ったときには、年齢差81歳の夫婦(夫127歳、妻46歳)が紹介され、夫が100歳を超えてから6人の子供をもうけたことがリポートされた。ただ長寿なだけではない。精気にあふれているのだ。

カンカとは、タクラマカン砂漠にだけ自生する紅柳の根に寄生する植物。「砂漠人参」とも呼ばれ、古くからカンカ茶、カンカ酒、煮込みやスープなど羊肉とあわせる食材として使われてきた。一族の働き頭であるトディ・メトソンさん(49)は、17歳で結婚して以来6人の子宝に恵まれ、すでに二人の孫もいる。「(カンカが)体にいいのはその通りだけど、30代後半ぐらいからのカンカ酒は特に強壮剤としてバッチリよ。女房がいない時に飲むと鼻血が出るくらいさ」とこっそり耳うちしてくれた。

◆カンカ : タクラマカン砂漠に生育する紅柳の根部に寄生する植物(ハマウツボ科ニクジュヨウ属の肉質茎)。過酷な環境でも育つ強じんさを持つ一方、マイナス20度以上40度以下で水はけの良い所でなければ育たないという特殊性も。広いタクラマカン砂漠の中でも、この条件に合致するのはホータン地区だけ。地元では大地の精として、1000年以上に渡って食生活の中心にあった。厚生労働省が漢方調剤用の医薬品として認定している生薬のニクジュヨウと同属である。
国内外で科学的な裏付けも

古くから体験的に信じられてきたカンカのこうした効能が近年、国内外の研究機関で科学的に実証されている。中国では05年にカンカが薬用生薬として公認され「中華人民共和国薬典」に記載された。日本でも京都薬科大・吉川雅之教授と近畿大・村岡修教授らにより、カンカの成分分析や健康への作用が研究されており、7月の「第25回天然物化学国際会議」で発表される予定だ。
健康パワーだけじゃない、砂漠緑化にも貢献

カンカの効能が広く認知されるにつれて、需要もホータン地区内外に広がってきた。カンカ栽培は農民に現金収入の道を開いてくれた。その先頭に立つニヤでは、02年にモデル事業として「和田帝辰沙生薬物開発有限公司」が設立され、カンカの人工栽培を始めた。05年には乾燥カンカ約300トンを生産。新きょう全体の50%を占めるまでになった。
このカンカ栽培、実は一石二鳥の砂漠緑化事業なのだ。

日本でも被害が目立ち始めている黄砂だが、内陸のゴビ砂漠やタクラマカン砂漠が源。その砂漠化を食い止めることは、今や世界的な課題でもある。砂漠環境に適した紅柳の植林が、地上では防砂林として、地下でも根が砂を固めて飛散を防ぎ、さらにカンカを生み出してくれる。
民豊県全体としても「富民強県」の重点事業として位置付けられ、県の幹部は「2010年までに2000ヘクタールの人工栽培用地を設け、環境改善と収入増を目指した地区の主要産業に育てていきたい」と話した。
シルクロードの盛衰と興亡の中、こつ然と歴史からその名を消した「精絶国」ニヤの地。約1500年の時を超えて、今度は「精を高める国」としてカンカ栽培を進めている。
◆カンカ商品情報 :
国内外で研究されてきたカンカだが、実は日本でもカンカを素材に取り入れた食品が既に森下仁丹、養命酒本舗など多数の健康食品メーカーから発売されている。浅田飴も近々、商品を発売する予定だ。問い合わせは、長寿郷ホータン広報センター 電話03-3562-5215
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