ホーム >漫画革命40年 永井豪特集
漫画家の永井豪氏(62)がデビュー40周年を迎えた。「ハレンチ学園」などのお色気シリーズで漫画界のタブーを打ち破り、「デビルマン」を代表するダークヒーローたちは、悪の中にある正義といった逆転の発想で新しい表現方法を切り開いてきた。ギャグ、シリアス、SFファンタジーなど、あらゆるジャンルのパイオニアが、この40年を振り返った。
永井氏とともに多くの作品を生んできた制作プロダクション「ダイナミックプロダクション」は、東京・西早稲田の早大の近くにある。廊下に飾られているポスターでは、おなじみの主人公たちがポーズをとり、部屋に入るとフィギュアやキャラクターグッズが所狭しと並んでいた。マジンガーZ、キューティーハニー、デビルマン…。
「ボクは漫画という娯楽の中で癒やしや希望、救いを少しでも多くの人に提供できたらいいなと思って描いてきました。これからも生きる糧になるキャラ、さまざまな願望を満足させてくれるキャラを考えていきたいですね」。壁に飾られた分身キャラ「冷奴(ひややっこ)」と同じ、いたずらっぽい笑顔をのぞかせた。
永井氏が漫画道に進むきっかけは、勘違いからだった。早大を目指して予備校に通っていた永井青年は、3週間止まらない下痢に苦しめられていた。兄に相談すると「あっ、それはきっと大腸がんだよ」。思い込みの激しい青年は、その時点でもう自分が死ぬものだと決め付けてしまった。「自分がこの世から消える…」。そう思ったときに、この世で生きていた証拠はいったい何で残せるだろうと真剣に考えた。
結論は子どものころから好きだった「漫画」。例え残り数カ月の命だとしても、1作品だけでもこの世に残そうと決心した。その後、覚悟を決めて病院に行くと診断結果は「大腸カタル」。1週間分の薬をもらい、あっさりと完治した…。それでも、このときの思い込みと決心は、人生の大きな転機となった。
「人間なんていつ死ぬか分からない。とにかく自分が生きた証拠をつめ跡ぐらいでもいいから残そう。受験勉強なんてしている場合じゃない」。行動は早かった。浪人生活わずか3カ月で予備校をスパッとやめ、漫画の道へ突っ走った。
作品のアイデアや人生の指針など、永井氏にとって「夢」がキーポイントとなるという。別世界へ行ったり、見たこともない顔の人間やモンスターと出合ったり…。さまざまな作品に夢の中での出来事や場所が大いに反映されている。人生の転機にも、夢が決断を後押ししてくれた。
漫画家を目指したものの、出版社に作品を持ち込んでは返される日々が続いた。そんなときに、手塚治虫氏のアシスタントになるという話が持ち上がり、会う約束をした。「手塚先生にお会いできるという日の前夜に夢を見たんですよ。それは手塚先生ではなく、石ノ森章太郎先生でした。何かボロボロの小屋からこっち来い、こっち来いと、おいでおいでしている夢でした」。
結局、約束したはずの手塚氏は急な出張が入り、会うことはできなかた。永井氏は後に石ノ森氏のアシスタントをしながら、67年に漫画家としてデビュー。瞬く間に何誌も抱える売れっ子漫画家となった。
デビュー前の19歳ときに、忍者SF長編を書いた。当時は15、16ページの読み切りを描いていたが、ボツばかり。どうしたら認めてもらえるかを考えた末、長編という結論に達する。1年がかりで、88ページの長編を完成させた。 この作品が、12月26日発売の「増刊 乱 TWINS 戦国武将列伝 其之二十」に掲載される。当時はタイトルすらなかった作品に「殺刃者(さつじんしゃ)」という名前がついた。「この作品を持っていって石ノ森先生に認められたということもありますしね。すごくこだわりのある作品なんです。ボクとしては、これが載ることで、初めて漫画家デビューできた気がするんですよ」。43年の歳月を経て“幻のデビュー作”が日の目を見る。【飯塚誠】
永井豪作品の集大成「永井豪撰集」11月16日から7&Y(セブンアンドワイ)独占先行予約開始!デビュー40周年を記念し永井豪自らがセレクトし、加筆・再構成した初の自薦集(各撰集6冊セット、全4撰集、合計24冊)が発売される。永久保存版にふさわしい特別装丁や劇団☆新感線の古田新太らの著名執筆陣、各作品の裏話などファン必携の「バイブル」だ。
本名・永井潔(きよし)。1945年(昭20)9月6日、石川県輪島市生まれ。幼いころに手塚治虫の漫画「ロストワールド」に出合い、漫画家を目指す。65年9月、石ノ森章太郎氏のアシスタントになる。67年、「目明しポリ吉」でデビュー。69年4月、ダイナミックプロダクションを設立。代表作に「ハレンチ学園」「デビルマン」「キューティーハニー」「マジンガーZ」などがある。大阪芸大キャラクター造形学科教授。血液型O。
(C) 永井豪/ダイナミックプロダクション2007