12月16日、グランプリ・ファイナル女子フリーで演技する浅田真央(AP)
実に4カ月ぶりの帰省だった。フィギュアスケートの浅田真央(16)は今月19日、久しぶりに地元名古屋の地を踏みしめた。「(機内では)ずっとエアロのことを考えていた。早く会ってパワーをもらいたい」。トイプードルの愛犬との再会を一番の楽しみに挙げた16歳の少女に、やっと無邪気な笑みが広がった。数日前のロシアで張りつめていた糸が、ようやく緩んだ。
GPファイナルで2連覇を果たすことができなかった浅田は今季、苦しみの中にいた。無類の強さを誇った昨季から1年がたち、慣れるはずのシニア2季目にもかかわらず、「緊張」という感情に初めて襲われた。GPシリーズ第1戦スケートアメリカは心臓のバクバクが止まらなかった。長野で行われたNHK杯でも、それは一緒だった。
練習中、他選手のスピードがいつも以上に速く感じられて、中央に入れず、リンクの内壁をただいたずらに回っていた。「ぶつかりそうで怖い」と、今までにない感覚の変化を打ち明けた。結果的に、世界最高得点で優勝した。それでも、必要以上の緊張から試合後は「疲れた」と、昨季までは1度も口にしたことがなかった言葉も漏らした。だからだろう。「(GPファイナルで)NHK杯の自信をつなげることができなかった」と帰国後に言った。
グランプリ・ファイナル女子フリーで転倒した浅田真央(AP)
ちょうど1年前。浅田はまさに天真らんまんというにふさわしかった。会見などで質問が飛べば、目や顔だけでなく、体ごと質問者の方を向いた。テレビカメラを物珍しそうにのぞきこみ、デジカメを向けられると、両脇をピシッと締めて直立不動のポーズをとる。重圧をものみ込むような無邪気な笑顔。だからこそ、挑戦者としてトリノ五輪金、銀、銅の荒川静香、サーシャ・コーエン、イリーナ・スルツカヤを直接対決で打ち破ってきた。
タイトルを守る立場に回った今季、スタッフを含めた周囲に守られる立場になった。GPファイナルの出場が瀬戸際だったNHK杯では珍しく、「質問時間はできる限り短く」(関係者)と報道陣との接触を極力避けるようにした。NHK杯の翌日には、滞在時間を惜しむように拠点先の米国へ渡った。重圧を避けようとする行動が、かえってその意識を高めてしまったのかもしれない。
名古屋に帰ったこの日、浅田は最後にもう1度「地元でパワーをもらいたい」と笑って言った。現在の目標の来春の世界選手権(東京)、そして最大目標の10年バンクーバー五輪では、より大きな重圧を受けることは分かっている。だからこそ最後の言葉には、ここで立ち直りたいという、強い意思が込められている。【今村健人】
- 今村 健人いまむら・けんと
- さいたま市出身。日刊スポーツ新聞社入社後、スポーツ部で大相撲、フィギュアスケートなどを担当。29歳。
※本連載は毎週木曜日更新予定です


