オーナーの井上忠子さん

　居心地の良いレトロな喫茶店をゆるりと探訪する連載第４弾は、神戸まで足を伸ばしてみた。訪れたのは新開地駅から徒歩５分のミナエンタウン内にある「光線」というお店。映画館「パルシネマしんこうえん」から、会員制スナックやカラオケパブが居並ぶ魅惑的な商店街（正直、ちょっと行ってみたい）をまっすぐ奥へ進んだ突き当たりに「光線」というシュールささえ感じさせる看板がある。
　１９７１年の元旦、ミナエンタウンの完成と同時に開店したこのお店の内装は、ほぼ開店した時のまま。ダイヤル式の黒電話が郷愁をかきたてる。「ほら、床の真ん中にヒビが入っているでしょう？　これがあの大震災の時の跡なんですよ」と、オーナーの井上忠子さんは話す。確か９５年の震災時、この近辺は甚大な被害があったはずだが、大きな窓ガラスや昔ながらの家具類はすべて無事だったという。

　ミナエンタウン内の「光線」

　形式的なメニュー表は置いていない。井上さんは「コーヒーはホットが３００円でアイス３５０円。サンドイッチやカレーも軽食類も５００円なので、ワンコインあれば大丈夫ですよ」。フルーツに牛乳を加えたミックスジュース（４００円）の濃厚な風味は、まさに昭和テイスト。「一番注文が多いのはコーヒーやけど、ミックスジュースもけっこう出ますね。それにサンドイッチも子供さんがお弁当代わりに持って行かれたりして、なかなか人気があるんですよ」。
　さまざまな苦難を乗り越え、長い年月を過ごしてきた調度品には清潔感があふれている。井上さんは「お店は古いけれど、掃除は一生懸命やっていますからね」と笑う。その笑顔は、いつまでも地元の皆さんに愛され続ける事でしょう。
【中上　博】