悔しさと手応えが混在していた。陸上男子100メートルで山県亮太(26=セイコー)は自己記録に並ぶ10秒00(追い風0・8メートル)で銅メダルを獲得した。日本勢では98年バンコク大会の伊東浩司氏以来となる頂点には届かなかった。レースは、9秒91のアジア記録を持ち、世界選手権で2度の決勝進出経験を持つ蘇炳添(中国)が9秒92で制した。

取材エリアに現れた山県は素直な気持ちを吐露した。「正直に言うと悔しいです」。アジアの頂点を決める勝負の舞台で、自己記録に並ぶ10秒00でフィニッシュラインを越えた。その先で見たのは9秒92でトラックに膝をつき、喜びを爆発させる蘇だった。日本人2人目の9秒台も、金メダルもわずかに届かなかった。これで蘇とは直接対決で2勝4敗で、負けたのはすべて決勝。「地力を上げないといけない」と勝負強さをまざまざと見せつけられた。

しかし、今までにない成長、手応えを感じたのも事実だった。

山県 9秒92という世界が遠くに感じなかった。(蘇は)もっと先にいるかと思ったが、案外近くに感じられた。

その数字を出せれば、ほぼ間違いなく世界大会の決勝に手が届く。目標に掲げる19年世界選手権、20年東京五輪の決勝が現実的に見えた瞬間でもあった。

実は自己記録が12秒台だった小学生の頃。「日本人には9秒台なんて無理だよ」と思っていた。到底、届かないと感じた数字だが、見方を変えて、現実的な目標にしていた。「過去から未来まで日本記録が伊東浩司さんと決まっているわけではない。10秒00という記録に伊東さんの名前があったからこそ、9秒に入れるか分からないけども、伊東さんのようになりたいと頑張っていた」。その少年。アジア王者となった伊東氏と記録は並んだ。

前回大会の決勝で6位に散った。10秒26で完敗だった。あれから4年後。今度は力を出し切った。悔しさと手応えを糧にして、これから、9秒台、世界の準決勝の壁に挑んでいく。【上田悠太】