リオデジャネイロ五輪代表の最終選考会となる名古屋ウィメンズマラソン(3月13日)の主催者は25日、1月31日の大阪国際女子を制し、代表入りが確実視される福士加代子(33=ワコール)が、一般参加でエントリーしたと発表した。25日、名古屋市内で大会記者発表が行われた。日本陸連の麻場一徳強化委員長(55)が出場回避を要望していたが、福士側は“強行エントリー”で初志貫徹。あいまいな陸連の選考基準が、メダル候補に余計な消耗戦を強いる展開となってきた。

 選手がいない会見場には例年の倍以上となるテレビカメラ4台、報道陣約50人が詰めかけた。日本陸連の酒井強化副委員長は壇上で、アテネ五輪金メダルの野口みずき、ロンドン五輪代表の木崎良子ら国内外招待選手14人とともに、一般参加として「福士加代子」の名を読み上げた。

 福士は1月の大阪国際女子で2時間22分17秒で優勝し、日本陸連の設定記録2時間22分30秒をクリアした。だが、日本陸連から「当確」は出ず「有力候補」とされた。落選の可能性があるために、故障のリスクを承知で中41日で出場に向かう。福士側の永山監督はこの日「自分たちが純粋にリオに行きたい。一貫して同じ考えです」と説明した。

 異例の要望も通じなかった。麻場強化委員長は21日、「名古屋に出ることは避けてもらいたい。五輪でメダルを狙う盤石のプロセスをしてもらいたい」と発言し、従来のスタンスは維持しつつ、思いとどまってほしいという気持ちを表現した。だが、永山監督は日本陸連から公式的な働きかけはないとした上で「私たちが日本陸連に何かを言われて出場をやめることはない。出場をやめるとすれば、当日のレース環境などを見て、ワコールとして福士の落選がないと判断した時だけだ」ときっぱり。

 その上で「走るとなったら、ちゃんと最後まで走る。途中でやめたら福士の印象が悪くなる」と、出場=完走を宣言した。ゼッケン101番の福士は一般参加のために、スタート位置は2列目以降となるが、「逆にライバルの動きが見えてありがたい」(永山監督)と勝負する構えだ。

 この日、酒井強化副委員長は、麻場強化委員長の4日前の発言について「個人的に話をされたのではないか」とした上で「内定は(日本陸連の)理事会じゃないと出ない。選考が始まると指示はできない。(各チームの)戦略、戦術に我々は一切関与しない。(福士の評価は)一番上ですが、今は候補の1人」と繰り返した。強化トップの要望も“空手形”に終わり、3月13日の号砲が刻々と近づく。代表2枠に3つの選考会といういびつな図式により、出口は見えてこない。【益田一弘】

<五輪代表選考問題の流れ>

 ◆1月31日 大阪国際女子で福士が独走優勝。2時間22分17秒は同30秒の日本陸連設定記録を突破。福士「リオ決定だべえ」。

 ◆2月1日 福士陣営が名古屋ウィメンズ出場を検討。ワコール永山監督「陸連から『当確』がない」。

 ◆同6日 丸亀国際ハーフの前日イベントで、日本陸連の酒井強化副委員長が「出るなとは言えない。選考要項ではわずかに落選もあり得る」と発言。

 ◆同8日 永山監督が「(代表入りへ)生きるか死ぬかでやっている。我々は攻めるしかない」と合宿準備に入ったことを明かす。

 ◆同21日 日本陸連・麻場強化委員長が福士陣営へ異例の要望。麻場強化委員長「名古屋に出ることは避けてもらいたい」。

 ◆同25日 名古屋ウィメンズエントリー選手発表。福士は一般参加。永山監督「やめるのは落選ないと判断した時だけ」。

 ◆3月13日 名古屋ウィメンズ号砲。

 ◆同17日 日本陸連理事会が開かれ、代表決定の予定。

<五輪女子マラソン選考騒動>

 ◆92年バルセロナ 世界選手権4位の有森裕子と大阪国際で有森を上回る2時間27分2秒の松野明美が争う。松野は「私を代表に選んでください」と異例の会見を開くも、有森に軍配。

 ◆96年アトランタ 鈴木博美は大阪で2時間26分27秒と候補中、最高タイムを出しながら落選した。一時は陣営が鈴木を強く推薦するなど論議を呼んだ。

 ◆00年シドニー 世界選手権で市橋有里が銀メダルで内定。その後、東京で山口衛里が優勝、大阪で弘山晴美が2位、名古屋で高橋尚子が優勝。3つの選考レースで2時間22分台の好タイムが続出。弘山が涙をのんで、早期内定に批判の声も出た。