昨夏世界選手権北京大会4位の荒井広宙(27=自衛隊)が、初の五輪を確実にした。雨と強風の悪条件で、日本陸連の派遣設定記録を15秒上回る3時間44分47秒で2位に入った。優勝した谷井孝行(33=自衛隊)が五輪に内定しているため、最後の1枠に入ることが決定的となった。昨年11月に卵巣がんで死去した母繁美さん(享年63)の遺影を目にして、涙した。同20キロと同50キロの代表計6人は今日18日に正式発表される。

 最も苦しい40キロすぎ。荒井は、先頭の谷井を追歩した。母繁美さんの遺影を抱えた父康行さん(67)の「頑張れ」という声が耳に届き、猛追した。40キロで1分18秒だった差を45キロで35秒まで縮めた。逆転は逃したが、派遣設定記録を突破して2位。ゴール後に母の遺影を持つ父と対面すると涙をこぼした。「泣く予定じゃなかったが、父親に不意を突かれて泣いてしまった。(テレビで)放送はしないでほしい…」と照れた。

 14年7月、母ががんの手術を受けたが「去年の春もすごく元気そうだった」と荒井。だが昨夏の世界選手権は北京の沿道に姿はなかった。帰国した荒井は母の姿を見て「かなりやせていて、まずいなと思った」。昨年11月23日。家族からの連絡で宮崎合宿を切り上げ、故郷長野の病院に駆けつけた。末っ子の顔を見た母は、翌24日に息を引き取った。荒井は「明るい人だった。頑張りなさい、と言ってくれた」と振り返った。

 ロンドン五輪を逃した悔しさを糧に、先輩谷井の背中を追って成長した。そして母が願ったリオ切符最後の1枚を確実にした。荒井は「天国で喜んでくれればいいなと思います」。代表発表の今日18日は亡き母の64回目の誕生日に当たる。【益田一弘】

 ◆荒井広宙(あらい・ひろおき)1988年(昭63)5月18日、長野県生まれ。中学で陸上部に入り、長野・中野実高2年で競歩を始める。福井工大-石川陸協-北陸亀の井ホテルをへて自衛隊。世界選手権は11年から3大会連続出場。昨夏北京大会は銅メダルの谷井に次ぐ4位入賞。180センチ、62キロ。

 ◆男子50キロ五輪代表選考 枠は最大3。昨夏世界選手権銅メダルの谷井が内定。昨年11月の全日本高畠大会と日本選手権が選考会で、日本人1位で派遣設定記録3時間45分2秒を満たした選手が内定。残りは両大会の日本人3位以内で派遣設定記録を満たした者から優先して選出。女子20キロは派遣設定記録突破者がいないが、6月下旬に追加される可能性を残す。