女子マラソン界に金メダルも狙える逸材が急浮上した。初マラソンの安藤友香(22=スズキ浜松AC)が歴代4位となる2時間21分36秒で日本人最高の2位入った。初マラソン日本記録も15秒更新。日本陸連の派遣設定記録2時間22分30秒も切って、8月の世界選手権(ロンドン)の代表にも一発内定した。有森裕子、高橋尚子、野口みずきらに続くスターの再来を予感させる快走だった。

 安藤は前半、時計すら見なかった。リオ五輪銀メダルのキルワ(バーレーン)の背中だけが道しるべだった。「前だけを見て走った。後半はどうでもいいや」。怖いもの知らずで付くと、20キロ付近からマッチレース。キルワのスパートに粘り強く耐えた30キロ手前。キルワから、隣に並べと手で合図がきた。雲の上の存在から「ライバルと見てもらった」と、力が湧いた。最後こそ離されたが、初マラソンで日本歴代4位となる2時間21分36秒の快走。初マラソン最高記録も15秒更新。フィニッシュテープを切ると、スズキ浜松ACの里内コーチと泣き笑いで抱き合った。

 「実感がないです。振り返ってみて2時間21分台で走れてすごくうれしい」

 女子マラソンの夜明けを予感させる救世主の到来だ。自己記録を出したキルワとたった19秒差。無名の存在から8月の世界選手権のメダル候補に急浮上した。

 両手には“おまじない”があった。レース前のウオーミングアップを終えると、里内コーチがフェルトペンを持ってきた。右手に「絶対諦めるな」と書かれた。レース中は手袋をしていたが「力をもらっている感じがしていた。右手にはパワーがある。きつくなった時も『諦めるな』と私の中で大きな力になりました」。左手にも自ら「楽しめ」「力を抜け」などと記した。里内コーチの教えだった。

 速さを支えるのは独特の「忍者走り」。両腕はノーガードのボクサーのように下に垂らす。肘もほぼ曲げない。腕振りも最小限で足を運ぶ。もともと上半身の力みが課題だった。「ロボットみたい」と振り返るほど、かつては肘を固めて走っていた。14年1月にスズキ浜松AC入り後、悪癖を改善するため「肘を引く」「腕を胸の位置まで上げる」など約2年の試行錯誤。15年12月に「無駄をなくす」と究極の脱力を求め、今の形にたどり着いた。力みのない走りは体力の消耗を抑える。モデルはいない。「我流です」と笑う。

 東京五輪。「昔は夢でしたが、今は目標です」。あどけなさが残る22歳は目を輝かせた。【上田悠太】

 ◆日本女子の2時間21分台以内 安藤が6人目。これまではのべ10度あり、高橋尚子と野口みずきが最多の3度ずつを記録。残りは渋井陽子が2度、千葉真子と坂本直子が1度ずつマーク。安藤は、日本女子で11度目となった。