08年北京五輪の陸上男子400メートルリレー銅メダリスト高平慎士(32=富士通)が24日、今夏限りで現役を引退すると発表した。所属先の陸上部のブログで表明。12年ロンドンまで五輪に3大会連続で出場を果たすなど、長く短距離界の「アニキ」的な存在として日本をけん引し続けてきた。昨年8月のリオデジャネイロ五輪代表を逃し、去就が注目されていた。引退後は社業に専念する。

 日本が誇る希代の名スプリンターが、ついにトラックを去る決断をした。高平が所属先陸上部のブログで引退の意向を表明した。「2017年の夏をもちましてアスリートとしてのキャリアを終えることといたしました。とても充実した素晴らしい時間だったと感じています」と気持ちを伝えた。

 昨年6月の日本選手権200メートルで6位に終わり、同8月のリオデジャネイロ五輪代表を逃した。その時に「世代交代の時は来る。そういうことが起こるのが五輪。退くときが近づいているのは確か」と引退を示唆していたが、この日、選手生活に区切りをつけることを正式に発表した。

 日本の大黒柱として君臨してきた。日本人離れしたストライドの大きな走りを武器に台頭し、08年北京五輪400メートルリレーでは、3走を務め、日本勢のトラック種目で80年ぶりとなるメダルを獲得した。その後、メンバーの朝原宣治が引退し、末続慎吾、盟友の塚原直貴もケガなどで表舞台から去ったが、ただ1人、一線級で走り続けた。

 「19秒台を出したい」。若手の台頭があっても決して目標を見失わない。11年の日本選手権では、2年ぶりとなる涙の優勝を遂げると、大歓声を浴び、会場にいた他選手から「すごい」と感嘆の声が上がったように、何度も何度も立ち上がり、若手の前に壁となって立ちはだかった。13年の世界選手権を逃し、04年アテネ五輪から続けた日本代表から落選。それでも「メダリストとしての意地とプライドがある」と諦めず世界を目指した。

 昨年のリオデジャネイロ五輪を逃すと若手を見つめながら涙で「日の丸を背負う覚悟を持って堂々と戦ってきてほしい」と話し心のバトンを手渡した。大舞台では、桐生祥秀(東洋大)らが400メートルリレーで銀メダルを手にした。もう思い残すことはない。現役ラストシーズンの初戦は5月3日の静岡国際。「残された時間を皆さんとともに楽しみ、1本でも多く皆さんの前で楽しく走っている姿をお見せしたい」。最後まで魂の走りを披露する。

 ◆高平慎士(たかひら・しんじ)1984年(昭59)7月18日、旭川市生まれ。小学4年から陸上を始め、旭川大高3年時に総体200メートル、国体400メートルで優勝した。順大に進み、04年日本選手権200メートルを制し、アテネ五輪代表を手にした。07年に富士通入りし、翌08年の北京五輪400メートルリレーで銅メダルを獲得した。自己ベストは、100メートル10秒20、200メートル20秒22。180センチ、62キロ。