女子やり投げの日本選手権女王・海老原有希(31=スズキ浜松AC)が4大会連続となる世界選手権(8月、ロンドン)の出場を確実にした。4投目に61メートル95センチで、世界選手権の参加標準記録を55センチ超えた。女子フィールド種目では唯一の代表となる見込み。世界選手権では97年アテネ大会以来となる同フィールド種目派遣選手なしの危機を救った。なお、世界選手権の追加代表は日本陸連から近日中に発表される。

 「おりゃー」との雄たけびとともに、海老原のやりは青空を切り裂いていった。4投目。きれいな弧を描き、60メートルラインをゆうに超えた位置に刺さった。世界選手権の参加標準記録を突破したことを確認すると、海老原は笑顔で両腕を上げた。4大会連続となる世界選手権を確実にして「よかったなと素直に思いました」と安堵(あんど)した。

 ここ数年は日本選手権初日に世界選手権や五輪出場を決め、代表第1号となるケースが多かった。それが今季はラストチャンスでやっと切符をつかみ「お待たせしました」と笑った。世界選手権では97年アテネ大会以来20年ぶりとなる女子フィールド種目0人の危機に「何とかしたいと思っていた」。ロンドンは「(63メートル80の)自己記録を目指したい。順位を取りたい」と入賞を狙う。

 栃木・上三川小時代は野球少女。自慢の強肩に加え、器用さも備えて、主にサードやショートを守った。コーチに「ワンバンで投げろ」と言われても「ノーバンでいけます」と主張する負けん気の強さもあった。一部の保護者から「何で女の子がサード?」と疑問を呈されたこともあった。そんな声が聞こえてか、強い打球を体で止める姿を何度も試合で見せ、黙らせたこともあった。海老原は「投げる時の肩の使い方は野球で学んだ」。白球を追った幼少期が原点だった。

 父治男さん(64)がスキー好きで、名前は「雪」になる予定だった。それが「雪が降ったらかわいそう」との理由で「有希」と字が変わった。そんな31歳のベテランが気温30度を超える夏の北海道で、ロンドンに滑り込んだ。【上田悠太】

 ◆海老原有希(えびはら・ゆき)1985年(昭60)10月28日、栃木県上三川町生まれ。栃木・真岡女高入学後にやり投げを始め、3年時の高校総体で優勝。国士舘大から08年にスズキ入社。日本選手権9度優勝。世界選手権は11年9位、13年予選敗退。15年予選敗退。164センチ、68キロ。