00年シドニーオリンピック(五輪)女子マラソン金メダルの高橋尚子さん(46)らを育成した小出義雄氏(79)が指導の第一線から退くことが3月31日、関係者の話で分かった。年度末の同日、同氏が代表を務める佐倉アスリート倶楽部が、実業団ユニバーサルエンターテインメントと結ぶ指導委託契約が満了。平成の名伯楽は自身の体調も考慮し、トップアスリートを育成する立場から外れることになった。平成の名伯楽が平成の終わりとともに、ひとつの区切りをつける。

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平成の佳境に、平成の陸上界を彩った名伯楽が、指導の第一線から退く。佐倉アスリート倶楽部の関係者はこの日、ユニバーサルエンターテインメントから請け負っている指導業務の委託契約が満期により終了することを認めた。その上で、小出代表の今後について「結果が求められる立場で活動してきましたが、今後は責任ある立場から離れることになります」と説明。佐倉アスリート倶楽部代表としての肩書は残り、求められた場合に助言などを送ることはある。しかし、基本的には指導者として、責任を持ち、トップランナーの育成を担う役割からは身を引くことになるという。

近年は体調面の不安があり、入退院を繰り返していた。過去には心疾患の手術も受け、心臓にはペースメーカーを入れた。別の関係者によると4、5年前に医者から「心臓が悪いんだから、あまり動かないように。命がなくなるよ」と言われ、大好きな酒、タバコを断ったという。その後も、指導の現場へ十分に足を運べていなかった。体調の回復を優先させる意味も込め、今回の決定に至ったようだ。

素質を見抜く力にたけ、褒めて伸ばす育成手腕やカリスマ性を存分に発揮し、多くのレジェンドを育てた。五輪で日本女子マラソン初の金メダルを獲得した高橋尚子を筆頭に教え子は実力者ぞろい。92年バルセロナ五輪銀、96年アトランタ五輪銅の有森裕子、97年世界選手権金の鈴木博美、03年世界選手権銅の千葉真子らも育てた。日本でいち早く高地トレーニングを導入するなど、まさに歴史と常識を塗りかえてきた。

そのひげや、野武士の様な個性的な風貌もあり、お茶の間からも人気を博した。シドニー五輪では、高橋が走っている途中からスタジアムで酒を飲んだ。日本中を感動に包んだ名シーンで酔っぱらっていたのは今も語り継がれる、平成の歴史の1ページだ。教え子で、長くコーチとして支えてきた深山(みやま)文夫氏(54)がユニバーサルエンターテインメントを引き続き指導していく。平成に続く新元号が決まろうかというタイミングで、指導のバトンを次世代に託す。

◆小出義雄(こいで・よしお)1939年(昭14)4月15日、千葉・佐倉市生まれ。山武農高3年で全国高校駅伝3区を走り、チームは29位。4年間の浪人を経て、順大では箱根駅伝に3年連続で出場。65年から教員となり、千葉県立長生高-佐倉高-市船橋高と23年間、陸上部監督を歴任。佐倉高時代の78、79年に高校駅伝出場、市船橋高時代の86年には全国制覇。88年にリクルート入社。同社ランニングクラブ監督を経て97年に積水化学女子陸上部監督に就任。。01年に佐倉アスリート倶楽部(AC)を設立し代表取締役兼監督に就任。02年12月に積水化学を退社し、佐倉ACに籍を置き豊田自動織機やユニバーサルエンターテインメントなどで指導していた。