<陸上:米大学南東地区選手権>◇11日◇アーカンソー州フェイエットビル◇男子100メートル決勝

陸上男子短距離のサニブラウン・ハキーム(20=フロリダ大)が日本人2人目となる9秒台をマークした。決勝で9秒99(追い風1・8メートル)。

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サニブラウンの臀部(でんぶ)、太もも裏、肩甲骨周りなどの筋肉は走るエネルギーを生み出す力に優れている。だが、硬いという弱点もある。だから競技人生はけがとの闘いだった。

高3年だった16年リオ・オリンピック(五輪)選考を兼ねた同年の日本選手権1週間前。高校総体南関東大会の男子400メートルリレーに第1走者で出場後、人影が少なくなったバックストレートで腰にチューブを巻き、高速の感覚を体に染み込ませる練習をしていると突如、倒れ込んだ。応急処置を受け、水の入った大きな青いプラスチックバケツの中に体ごとすっぽりと入れられた。自力で動けず、チームメート10人以上に囲まれ、台車で運ばれた。左太もも肉離れ。五輪を断念するしかなかった。

恵まれた才能に任せ、走っていた自分とおさらばした。焦りを抑え、海外を回り、多くの人の話に耳を傾けた。体の軸の使い方や体重移動など貪欲に学んだ。

その後も故障は続く。17年世界選手権200メートルで右太もも裏を痛め、400メートルリレーは出場できず、後のシーズンも休養。18年5月にも右脚付け根を痛めた。その時も脚に負担のかからないリハビリを重ね、バランスよく体を鍛えていた。走れぬ時間、屈辱に向き合い、貴重な成長の糧とする力があった。【上田悠太】