群雄割拠から1強時代の到来を予感させるほど強かった。男子100メートルで9秒97の日本記録を持つサニブラウン・ハキーム(20=フロリダ大)が10秒02で2年ぶり2度目の優勝を飾った。湿度88%と記録が出にくい重い空気に、向かい風0・3メートルの悪条件下、大会記録を0秒03更新。向かい風での日本人最高記録でもあった。期待された9秒台はならなかったが、2位の桐生祥秀(23=日本生命)に0秒14の大差を付け、秋の世界選手権(ドーハ)の代表に内定した。

完全に格が違った。1人だけ世界レベルだった。サニブラウンは「顔を上げたぐらい」で勝利を確信したという。50メートル付近で勝負あり。後半型の男がトップに立っていた。期待された9秒台は、悪条件に阻まれ、0秒03だけ足りなかった。ただ、10秒02は大会新記録。2位桐生と0秒14の大差が強さを際立たせた。

サニブラウン 何とも言えないタイム。あと0秒03。スタートでちゃんと出られれば。アメリカでもっと速い選手と走ってきて、ここで自分の強さを見せられないようでは意味がない。

視線は世界に向く。序盤の加速不足を反省し「弱い面を出してしまっては世界のトップレベルでは全然通用しない。世界にはまだまだ化け物みたいな人が多い。今のままじゃ全然ダメ。しっかり決勝に残り、メダルを狙えるところまで練習を積み上げていければ」と引き締めた。メンタルも規格外だ。隣を走った桐生については「自分との闘いなので、全然気にしてなかったです」。9秒97の日本新記録を出した全米学生選手権は3位だった。日本中の歓喜とは裏腹に、優勝した選手と0秒11差だった現実を「ボコボコにやられた」と受け止める。また「緊張は、ほとんどしなくなっちゃったかも」とまで言う。日本人では32年ロサンゼルスオリンピック以来となる世界大会での決勝進出はおろか、初のメダルの期待も抱かせる。

昔から世界が基準だった。競技以外も。東京・城西高卒業後の進路に米国を選んだのは、競技レベルの高さだけではない。本場で「スポーツマネジメント」を学び、セカンドキャリアも見据え、競技以外も充実させたいと考えたからだ。幼少期から家族でのコミュニケーションは英語を使う時もあった。CS放送で海外アニメや映画を英語で見る習慣もあった。それでもフロリダ大入学当初は慣れない試験に戸惑ったが、今や1000単語のエッセーは2時間以内にできるという。

グローバルな男が目指すは日本最速でなく、地上最速。前回の世界選手権の準決勝は4歩目でバランスを崩し、日本勢初の決勝進出は夢と消えた。当時の「やらかした」記憶を金字塔で塗り替える。【上田悠太】

◆日本選手権男子100メートルの大差勝利 今回のレースでサニブラウンは2位桐生と0秒14の大差で優勝した。秒速10メートルで計算すると1・4~1・5メートルの差になる。00年以降では02年大会で10秒05で優勝した朝原宣治と2位田島宣弘の0秒23差が最大差。10年大会を10秒26で制した江里口匡史と2位塚原直貴の0秒19差が2番目。00年大会を10秒35で制した朝原と2位安井章泰の0秒15差が3番目。今回の0秒14差は、13年大会で10秒11で優勝した山県亮太と2位桐生の差と同じ4番目のタイ記録になる。