国際オリンピック委員会(IOC)の鶴の一声からわずか16日で東京から札幌に移されたマラソンと競歩。強引すぎる手法に、各界からは不満の声が漏れた。

IOCが強調した「アスリートファースト」を国内関係者は冷ややかに見る。「オリンピック(五輪)の華 札幌へ」と題し、3回の連載で移転騒動をひもとく。

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「驚きと同時に光栄だ」。国際オリンピック委員会(IOC)がマラソン、競歩の札幌開催を東京都と大会組織委員会へ提案したことを発表した翌10月17日、秋元克広札幌市長の表情は明るかった。東京への配慮はなく、招致を目指す30年冬季五輪に向けて「五輪をやっても間違いない都市だという認識をしていただく」と前のめりな発言が目立った。

正式決定した11月1日。並んで取材に応じた鈴木直道道知事と同様、顔つきは最後まで硬かった。「東京でのマラソンを楽しみにされていた方々の気持ちを考えると…」。晴れやかだった表情が一変。白々しささえ感じる会見だった。

政治家たちに、30年札幌冬季五輪への思惑が見え隠れする。北海道出身の橋本聖子五輪相は担当大臣という理由から、東京都の小池百合子知事が知った10月15日よりも前の同10日ごろ、組織委側から札幌移転案を聞かされていたという。

IOCジョン・コーツ調整委員長も同16日に「先週には橋本氏が前向きであることも知った」と語っている。それでも橋本氏本人は「聞いたのは15日」と否定。「決まったことに従うのが政府の立場」と繰り返し、IOC案を容認した。

橋本氏も移転決定後と前で発言の温度差がある。同3日、日刊スポーツのインタビューで「30年も(IOCに)この国に任せたいと思ってもらえるようにするのが、2020年の姿です」と発言。一転、今月1日の正式決定後は「東京大会の開催地の1つとしてやっていくべきことと、30年が同じものにはならない」とトーンダウンした。

30年招致を掲げて4月の市長選で再選を果たした同市長。都職員から政治家に転身し道政を引っ張る鈴木知事がマラソンを種に「オール北海道で取り組みたい」と呼びかける。政治家たちの思惑が渦巻く、移転劇でもあった。(おわり)