陸上のトップ選手が集結する「セイコー・ゴールデングランプリ(GGP)東京」(日刊スポーツ新聞社共催)は23日、1年後の東京五輪メイン会場となる国立競技場で行われる。注目選手を3日間で紹介する「国立を駆ける」の第1回は、女子1500メートルで日本新記録が期待される田中希実(20=豊田自動織機TC)。元選手で父の健智コーチ(49)と二人三脚で歩む中距離の星が、「新国立初の陸上大会」で足跡を刻む。

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新型コロナウイルスの影が近づいていた2月。ニュージーランドでのレース後、親子に溝ができた。田中は同地でハーフマラソン日本記録保持者の新谷仁美(積水化学)に完敗。父に「意識を根底から変える」と告げられ「お願いします。負けたくない」と誓った。

だが、帰国後はコロナ禍で試合の見通しが立たなくなった。幸い地元の兵庫・小野市では、制限付きながら競技場を使うことができた。健智コーチは「意地悪ないやらしい練習。例えば3000メートル走る。スピードを求める300メートルの後、つなぎ(ジョギング)の100メートルもペース管理で波を作り、休ませない」。目標が見えない娘は「今、きつさに耐えて何になるん!」と訴え、父も「気持ちは分かる。でもな…」と反論。自宅でも言い合いが続いた。

そんなスピード強化は実を結んだ。7月はホクレン・ディスタンスチャレンジ(HDC)深川大会の3000メートルで8分41秒35を記録。福士加代子(ワコール)の日本記録を18年ぶりに更新した。その4日前にはHDC士別大会で、1500メートル日本歴代2位の4分8秒68。快進撃中の田中は「父も何回も見捨てたくなったと思う。私は突き放されたら『すみません』と言うしかない。それで何とか持ちました」と照れ笑いした。

18年に兵庫・西脇工高から同大へ進学。あえて部活ではなく、豊田自動織機TCの肩書で父と歩んできた。今大会で臨む1500メートルは4分7秒86の日本記録を、同じ小野市出身の小林祐梨子が持つ。「祐梨子さんに追いつきたい思いは強い。日本記録を出したいです」。国立での走りは、その試金石となる。【松本航】

◆田中希実(たなか・のぞみ)1999年(平11)9月4日、兵庫・小野市生まれ。小野南中3年時に全国中学校大会1500メートルで優勝。西脇工高を経て、同大1年だった18年のU20(20歳未満)世界選手権では3000メートル優勝。19年世界選手権5000メートル14位。目標は「800(メートル)から5000(メートル)まで走れるマルチランナー」。母千洋さんは北海道マラソンで2度の優勝。153センチ、41キロ。