ウイルス、滅びよ-。そんな熱き思いを込め、タスキをつなぐ。第97回東京箱根間往復大学駅伝(来年1月2、3日)に出場する21チームのエントリー選手(各16人以内)が10日発表された。オンラインでの監督会見で、連覇を狙う青学大の原晋監督(53)は恒例の作戦名を「絆大作戦」と発表した。新型コロナ禍の暗い世相を、少しでも明るく変えられるような箱根駅伝を目指していく。10区間のエントリー選手は29日に決まる。

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見えない敵の感染拡大は止まらず、終息の気配も見えてこない。息苦しい時代の箱根となる。沿道は観戦の自粛が求められ、華々しい応援団の姿もない。心折れそうな時、背中を押してくれる「応援の声」は「飛沫(ひまつ)」だと禁じられる。仲間と集まること、肩を組み合うことは「密」だと悪者扱いされる。もちろん、この日の会見もオンライン。ただ画面上からも伝わる熱さで、青学大の原監督は語った。大切にしたかったのは「絆」だった。

「コロナ禍で分断社会になっている。さまざまな偏見、差別もあった。会いたくても、会えない故郷の仲間、彼女、彼氏もいたことでしょう。人とのつながりが薄れている。絆を大切にし、レースに挑みたい。箱根駅伝を通して、多くの皆さんに元気と勇気、そして絆を取り戻せるようにしていきたい」

ユニホームにも絆の1つが刻まれる。今大会からスポンサー名をユニホームに入れられるようになったが、そこには「妙高市」と入る。強豪とはほど遠かった04年から合宿を行う場所。視聴率は30%近く、宣伝効果の高い大イベント。他大学は企業名が多い中、長く続く絆を形に残した。

チームも絆で1つに結束する。全日本大学駅伝は4位。アンカーの吉田圭太がトップを譲る形で、優勝はこぼれ落ちていった。帰ってきた寮。落ち込むエースの部屋に4年生全員が自然と集まってきた。「大丈夫か」、「気にするな」。たわいのない話と、励ましの言葉が飛び交った。下級生からも「笑って卒業してもらいますからね」とラインが入っていた。吉田は「自分の力以上に背負っていたものがあった」。青学のエース-。その重い看板につぶされそうになっていた気持ちが一気に軽くなった。

目標は優勝。今年1年生で2区を走った岸本は故障で外れたが、チーム全体の状態は上向きだ。ただ「絆大作戦」に込めた思いは、箱根の先にもある。「箱根駅伝が終わり、新年度を迎え、コロナウイルスが終息することを祈っている」。マスクもソーシャルディスタンスもいらない。そんな日常が戻った時、作戦は完結する。【上田悠太】