故郷から輝きを取り戻す。陸上の織田記念(広島・エディオンスタジアム)を翌日に控えた28日、有力選手が会見し、男子100メートルで10秒00の自己ベストを持つ山県亮太(28=セイコー)が過去2年からの不振脱却を誓った。広島市出身、目指すは東京五輪の参加標準記録(10秒05)のクリア。昔から慣れ親しんだスタジアムで、心機一転の快走を期す。

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コロナ禍にあって久々の里帰りだった。正月も帰省を控えていたが、レースを機に、生まれた時から18歳の修道高時代まで過ごした広島に戻れた。山県は「久しぶりの広島で、五輪を懸けた大きなレース。しばらく調子いい姿を見せられていない。また帰ってきたなと思ってもらえるように頑張りたい」と力を込めた。小学生の時から走っていた会場で、東京五輪の参加標準記録突破を思い描いた。

心が晴れない時も、温かく迎えてくれるのが故郷だ。ルーティンは作らないようにしている。ただ1つ決まってやることがある。起床後、広島の方角を向く。そして先祖、家族に感謝し、手を合わせて祈る。故郷愛が本当に強く、カープ男子。実家にある人形には「鉄人」と呼ばれた衣笠祥雄氏にちなみ「さちお」と名付け、広島県代表で出場した18年福井国体時には験担ぎの意味も込め、リーグ制覇した広島カープのボクサーパンツをはいてレースに臨んだ。

18年にはジャカルタ・アジア大会決勝で10秒00を出し、銅メダルに輝いた。しかし、過去2年は故障の負の連鎖に苦しむ。19年は腰を痛め、右足首の靱帯(じんたい)も断裂し、昨年は右膝を2度、痛めていた。「殻を破って、変えないといけない」。今まで技術面の指導を受ける専属のコーチは付けていなかったが、今季から高野大樹コーチに師事するようになった。自身が暗闇にいた20年から、五輪は1年延期に。これも運命の巡り合わせか-。12年ロンドン、16年リオ代表と五輪シーズンに強い山県が、心機一転の再起を懸ける。【上田悠太】