山木伝説(かける、25=RUDOLF)はマイクに向かい、力強く宣言した。

「自分の名前は『伝説』と書いて『かける』。少しでも覚えてもらいたいと思います!」

走った自分が思わず驚く、全体1位の出来だった。

タイムレース2組。9レーンに立った山木の意識は、隣を走る8レーンの鈴木碧斗(東洋大)にあった。

「鈴木選手は世界リレーの代表。そこに離されないように考えて、最後まで走れたのが大きかったです」

1着でゴールし、タイムを見て、腰を抜かした。5月の東日本実業団選手権で記録した自己ベスト46秒81を1秒以上更新する45秒69。1度も出たことがない日本選手権(24日開幕、大阪・ヤンマースタジアム長居)の参加標準記録46秒00を上回った。興奮していた。

「まさか45秒を出せると思っていなかった。今でも『これが自分の力なのかな?』と不思議な思いです。日本選手権に出場できると、まだ実感していません」

「伝説」の名は父紀彦さんに授かった。伝説のように語り継がれてほしい-。そんな思いを背負い、山形・米沢四中3年時には全国中学校体育大会の400メートルで優勝。九里学園高時代には同級生女子から「デンセツ君」と呼ばれ、自らもその名に誇りをもってきた。

日大卒業後は山形県に戻り、就職に伴って競技を引退した。だが、走ることへの思いを諦めきれず、2年半のブランクを経て、20年夏に現役復帰。現在は公益財団法人の「成田市スポーツ・みどり振興財団」で午前8時半から午後5時15分まで勤務し、週4回、約1時間の練習に励んでいる。

はい上がり、自らの力でたぐり寄せた日本選手権。夢舞台は、東京五輪の代表選考会に設定されている。

「欲張らず、この調子を落とさずに走れば、結果がついてくると思っています。日本選手権の予選、決勝を、全力で走れればと思っています」

山木伝説。走りでその名を知らしめる。【松本航】