世界最速夫婦の恩師が、2人のエピソードを明かした。6日の東京マラソンで、鈴木健吾(26=富士通)と一山麻緒(24=ワコール)が夫婦そろって日本人1位となり、ギネス世界記録を樹立した。一夜明けた7日、一山の鹿児島・出水中央高時代の恩師にあたる黒田安名監督(67)が日刊スポーツの取材に応じ、エールを送った。

【東京マラソン】世界最速夫婦誕生「2人で1番はうれしい」鈴木健吾&一山麻緒夫妻ギネス更新>>

夫婦が相次いで日本人トップでゴール。その光景に「正直、驚いた」と黒田さんは振り返った。国内トップクラスの実績を持つ2人だが、ともに状態は万全ではなかったからだ。

黒田さんの教え子だった一山は昨年11月の全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝)で区間13位、今年1月の全国都道府県対抗女子駅伝でも区間12位と不本意な成績が続いた。東京五輪後は心身の状態が上がらず苦労していた。様子を見聞きしていた黒田さんは「心配していた」と話す。

一山は同五輪以来のマラソン出場となったが、底力を発揮。新谷との日本勢トップ争いを繰り広げ、終盤一気に突き放した。黒田さんは「数カ月前は、腰が落ちてスライドが伸びていなかった。でも昨日のレースではフォームが改善されつつあった」と分析。大会の約3日前から突然調子が上がってきたとレース後に本人から知らされ、改めて驚かされたと明かした。

一方の鈴木も、2月に入って膝裏に痛みが出るなど調整に狂いが生じていた。そうした事情も耳に入っていただけに「健ちゃんにもびっくりした」と力走をたたえた。

鈴木と一山は昨年12月に結婚を発表した。実は結婚前に1度、2人で一山の母校を訪ねていた。黒田さんは初対面の鈴木を「素直で謙虚な好青年」と感じたという。それは21年2月のびわ湖毎日マラソンに出走する前だった。一山は東京五輪出場を決めていた一方で、鈴木は「僕はけがばかりで実績がない。釣り合いが取れていない」と謙虚な口ぶりで話していたという。そんな鈴木に対して黒田さんは「次走のびわ湖で日本記録を出したらいい」。そのエールに応えるかのように、びわ湖で鈴木は偉業達成。黒田さんは「本当に(日本)新記録を出しちゃったんだからすごい」と目を細める。

東京マラソンで見せた2人の快走を受け、「やっぱりあの夫婦は持っている。いいコンビですよね」と評した黒田さん。世界最速夫婦が仲良く走り続けていく姿を、鹿児島から温かく見守っていく。【奥岡幹浩】