女子中長距離の至宝にアクシデントが発生していた。1万メートルで日本歴代2位の記録を持つ不破聖衣来(19=拓大)が、今季初レースの5000メートルで12人中最下位となった。1月に右足の故障が判明し、本格的な練習を始めたのはわずか1週間前。世界選手権(7月、米オレゴン)の選考会となる日本選手権1万メートル(5月7日、東京・国立競技場)に照準を合わせ、急ピッチで調整を進めていく。

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先頭集団に目もくれず、淡々とピッチを刻む。不破は序盤の400メートルで最後尾につき、ライバルの背中が遠ざかる中でも、1キロ3分30秒ほどのペースを愚直に守った。残り2周で周回遅れとなり、自己ベストを2分以上も下回る17分30秒45で完走。本来の姿と程遠かった今季初戦は、故障明けの“ぶっつけ本番”だった。

五十嵐利治監督によると、1月の全国都道府県対抗女子駅伝後に右アキレス腱(けん)周囲炎が判明した。大ブレークした昨季に積み重なった疲労や、血行障害が原因。「走りの成長」に体が追いついていなかった。3月末まで歩行も控え、新2年生となった今月7日に40分ジョグを開始。本格的な練習再開は1000メートルを1本走った11日だった。

雑音を振り払い、覚悟を決めて出走した。初めての世界選手権出場に向けて、3週間後の日本選手権1万メートルが大本命のレース。どれだけ遅れようが、実戦こそが「生きた練習」と割り切って出場した。故障の再発が懸念される中でも、11日の練習後に不破から「全ては5月7日に勝負するためにやっているので、どんなに批判やバッシングをされても大丈夫です」と強い申し出があったという。

この日はレース前に2人で掲げた(1)ケガなく完走(2)一定のペースを刻む、この2つの目的は果たした。「(本人も)シュンっとしているとか全然ない」と五十嵐監督。取材には応じず、治療により会場を早々と引き揚げた不破だが、落胆する様子はなかったという。

調整不足は否めないが、同監督は「諦めていない」と強調する。24年パリ五輪、その先のマラソンでの金メダルを見据える2人。まずは3週間後の大一番に向けて、最大限の準備をする。【佐藤礼征】