15年世界選手権北京大会代表の前田彩里(さいり、31=ダイハツ)が、出産後初のマラソンで24年パリ五輪の挑戦権を獲得した。2時間25分24秒の6位に入り、五輪代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」(10月15日、東京)の出場権を獲得。ママさん選手がマラソンで五輪に出場すれば日本初となる。ヘブン・デッセ(エチオピア)が2時間21分13秒で優勝した。

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4年ぶり7度目のマラソンだったが、全盛期を思わせる力走だった。20年12月に長女彩葉(いろは)ちゃんを出産。沿道にいた娘の姿を見た前田は「応援してくれて力になった」と明かした。第2集団で走り続け、堂々の6位に入った。

「(母として初のマラソンに)心境の変化は感じなかった。自分の中で試行錯誤していて、両方(子育てと競技を)がむしゃらにやっています」

2時間25分24秒は、最後に出場した4年前の名古屋ウィメンズより1秒上回る好タイム。五輪選考会のMGC出場権を獲得し「目標の2時間24分は切れなかったが、次につなげられた」と納得の表情だ。

佛教大から大阪・池田市に拠点を置く名門ダイハツに入社し、15年世界選手権で13位に。16年リオデジャネイロ、21年東京五輪は故障に泣き、代表にはなれなかった。その間の18年、同じマラソン選手で現在は九電工所属の窪田忍(31)と結婚した。

長女を授かって以後、熊本県の実家で母親に娘の世話をしてもらい、地元で個人練習に励んだ。福岡に拠点を置く夫とは週末だけ会う。ダイハツには九州合宿などの際に合流し、今回も宮崎で山中美和子監督(44)から指導を受けた。

指揮官は今回の力走を絶賛した上で、同じパリを目指す松田瑞生(27)とともに「五輪までは全力で立ち向かいたい」とサポートを約束する。出産後は焦りもあったという前田も「他の方がどうとかではなく、自分のことをしっかりやりたい」と自然体だ。

10月のMGCで代表権をつかめば、日本初のママさんマラソン五輪代表選手になる。この日、応援に駆けつけた夫は「結婚して子どもができ、成績が悪くなったとは言われたくないので」と喜んだ。ママさん選手の挑戦は、まだまだ続く。【横田和幸】

◆ママさん選手 日本では赤羽有紀子が先駆者。出産後に08年北京五輪5000メートル、1万メートル代表、09、11年世界選手権にはマラソン代表に。11、14年の大阪国際では優勝した。前田がマラソンで五輪に出場すれば日本初。世界では五輪や世界選手権で活躍したポーラ・ラドクリフ(英国)やリディア・シモン(ルーマニア)が有名。

◆前田彩里(まえだ・さいり)1991年(平成3)11月7日、熊本・菊池郡生まれ。熊本信愛女学院、佛教大から14年ダイハツ入りし、コーポレート統括本部所属。マラソンは大学4年時の14年大阪国際で初挑戦し、当時の日本学生記録の2時間26分46秒をマーク。15年名古屋ウィメンズで2時間22分48秒の自己ベストで日本人トップの2位に。159センチ。