サニブラウン・ハキーム(24=東レ)が貫禄の走りを見せた。10秒13(追い風1・2メートル)で予選3組を1着でゴール。昨夏の世界選手権で日本人初の決勝進出を遂げたスプリンターが、全体1位で準決勝へ駒を進めた。昨年6月10日に同選手権を制して以来358日ぶりの国内レースで快走。11年ぶりの連覇が懸かる今日4日の準決勝と決勝に、約100人分のチケットを購入して子供たちを無料招待することも判明。日本の陸上界を盛り上げていく。

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世界を知る男は余裕の笑みで振り返った。「若干、反応が遅れたかな」。号砲に対する速度は0・182。確かにスタートは同組最下位タイと出遅れたが、焦りなどない。中盤にかけて加速し、軽々抜き去った。最後は流してフィニッシュ。「落ち着いてできたので、とりあえずオッケイ」。さわやかに汗をぬぐった。

練習拠点の米国から帰国したのは4日前。急ピッチ調整が不可避の状況にも動じなかった。「時差ボケ、全然ないっす」。予選前日は午後9時30分に眠りにつき、午前8時に起床。「バッチシですね」と白い歯を見せた。4月下旬の2レース後の、1カ月以上のブランクを感じさせなかった。

1年ぶりの国内凱旋(がいせん)となる日本一決定戦。実は特別な思いで臨んでいた。「少しでも陸上を好きになってもらえる取り組みをしたい」。準決勝、決勝がある4日のチケットを約100人分、自ら購入。子供たちを無料招待し、スタジアムの臨場感を楽しんでもらう計画を立てた。

「コロナ禍の変化もあった中、実際にレースを見てもらう。大会を楽しんでもらう。1つ1つの積み重ねが大事で、今できること」

契機となった1つが、他競技の盛り上がりだ。サッカーW杯や野球のWBCで日本列島が熱狂した姿に触発された。「スポーツが盛り上がっている中、陸上を少しでも好きになってくれるきっかけになれば、うれしいかな」。4月には東レと所属契約を締結。プロとして陸上界を引っ張る覚悟も強まった。「企業さんとのミーティングで分かることもある。結果を出すことは大切だけど、子供たちを会場に招待したり、応援する楽しさを実感してもらうことも必要」。その第1歩を踏み出す。プーマ社とも相談し、今大会のために左右で異なる配色のシューズも特注した。レースを盛り上げる企画を重ねてきた。

全体1位のタイムで準決勝に進出。今日、参加標準記録(10秒00)を突破すれば今年8月の世界選手権ブダペスト大会代表に内定する。「明日はもっとお客さんがいれば楽しいかな」。準備できている。磨き抜いた脚力で、たくさんの子供たちに最速決定戦の魅力と夢を届ける。【藤塚大輔】